第165話「夜叉白雪と光の世界、花と極寒の世界」夢主 ページ23
「……いろは姉さまは、花を育てた事は有る?」
「……いいえ。」
私は唐突にそんな事を言い出した鏡花ちゃんに、首を振って答えた。
花は好きだ。
美しいから。落ち着くから。可憐であるにも関わらず、毒を持っている……なんてざらに有り、人間よりも面白い。
……けれど、私には余裕が無い為に育てた事はない。
一度も。
「……そう。知ってると思うけど……花が生きていくには、光と水が必要。……けど、それだけじゃ生きることは出来ない。」
「当たり前でしょう?ある程度の暖かさが無ければ……極寒の地では雑草であろうと余り生えないのは
「その通り……。私が花ならば、光の世界は極寒の地。私は、生きられない。」
そう云った鏡花ちゃんは、とても悲し気で今にも消えてしまいそうで、壊れてしまいそうで、まるで私のようであった。
成程、太宰さんが何時も微笑んで居る様に、と私に命じたのも頷ける。
そんな事を頭の隅で考えていた私は、立ち上がると牢の柵の前にまで歩みを進めた。
「そうかもしれない。でも、私だって血は黒い。鏡花ちゃんもよく知ってるでしょう?けれど、こうして生きて……__」
「違う!いろは姉さまと私は違う。其れに……」
鏡花ちゃんが言わんとしていることが判った。
私は生きている。けれど、死んでいる。
息はしているけれど……心臓は脈打っているけれど、光は、夢は希望は、忘れてしまった。無くしてしまった。
……私の心は、何年も前に死んでいる。
敦くんと出会う前から。
「……確かにそう。でも……向いていなくても、望むものは手に入れなくちゃ。求めるならば、強欲に。夜叉にとっては光の世界は花にとっての極寒の世界で有る様に、私にとって光の世界は毒でしかない。其れでも、私は光の世界を欲した。だから、此処に居る。」
私が光の世界に居たいならば、あの人の意志や行動パターンを模すのが一番だから。
だから、光そのものである敦くんを探す義務が、私には有る。
あの人ならば、全力で探すから。助けるための準備を、完璧にしようとするから。
……其れが、私の最愛の兄……暁
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年9月9日 16時