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第98話「遭遇(前編)」アグラソル ページ5

「あんなにピリピリした探偵社は初めてね」

赤信号で足を止めるのとほぼ同時に、黒髪の少女…谷崎ナオミはそう、怪訝そうに云う。
因みに云うまでも無いが、彼女は僕の入社試験で被害者役を演じた少女である。

「ナオミ、矢っ張り社に戻るンだ」
「嫌よ、ナオミも捜索を手伝うわ。こんな時に兄様と離れたくない!」
「危険すぎる!」
「危険は社も同じよ、建物ごと消されるわ。ねぇ敦さん、そうでしょ?」

そう僕らの方に振り返って云ったナオミさんに、敦さんはお茶を濁す。

「敦君、君と違って妹には異能が無いンだ。足を引っ張る。ソル君ならよく判るだろ?」
「まァ……。確かにこの状況で非戦闘員は足手まといなのは否定出来ないが…」
「酷いわ、ソルさん!何よ、兄様!兄様、ナオミの云う事は何でも聞くと云ったじゃない!」
「き、昨日のアレはお前が無理矢理……!」

谷崎さんの言葉と僕の返答が気に入らなかったらしく、幼子の様に頬を膨らませてそう云うナオミさんに、谷崎さんは必死に弁論しようとした…が。
“何か”がその先の言葉を止めたらしく、谷崎さんはハッとしたかと思うと、両手で顔を隠して謝る。

「と……、兎に角!事務員は社に戻るンだ!」

信号が青に殆ど同時にそう云ったかと思うと走り出した谷崎さん。
敦さんは呆れたような顔をしながら、谷崎さんを追いかける。

「あらあら。何なら、昨日の懇願を思い出させてあ__」
「……ぇ?」

目の前で、ナオミさんの姿が消える。
何の前兆も無く、至って唐突に。

__『いい事、ソル。もし誰かが唐突に消えるような事があれば有れば(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)直ぐに異能で私になって、相手()に話を合わせて。そうすれば、ソルまで犠牲になることは防げるから』__

「…成程、いろは。君は既に似た事態に遭遇済みだったって訳かい…!」

僕は社を出る直前、真剣な顔でそう云ったいろはの言葉を思い出していた。

第99話「遭遇(後編)」アグラソル→←第97話「事件の露見」夢主



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設定タグ:文スト , 中島敦 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年7月10日 12時

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