第56話「行方不明」 ページ7
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三人称視点になります。
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暁がマフィアのとある一室で目覚めたころ……つまり、あの列車爆破未遂事件の翌朝、与謝野晶子は大きな欠伸をしながら、社の中へと入っていった。
彼女の欠伸の原因は、武装探偵社の新人たる、中島敦と共に連れ帰ってきた少女・泉鏡花の看病を、一晩、ほぼ寝ずにしていたからである。
「お早う御座います、与謝野先生。お疲れ様です。」
「嗚呼……お早う、国木田、いろは……ん?」
探偵社の同僚である国木田独歩と挨拶を交わしていた与謝野晶子は何時もの様に返して、違和感を感じて、足を止める。
「……国木田、Aはまだ来てないのかい?」
「えぇ。普段なら既に来ている時間なんですが……。」
彼女の問いに、国木田は顔をしかめて答える。
その答えに、与謝野晶子は顔を青くし、彼女に電話をかける……が、何度かの呼び出し音の後、聞こえてきたのは単調な機械の声。
あの、常に必死で愛らしい少女の声ではない。
「……まずいかもしれないよ、国木田。そういえば、昨日は敦とあの娘のことで一杯一杯だったが……今思えば、列車の中で別れてから、一度も見ていない。もしかすると……マフィアに攫われたのかも。」
「……莫迦な。暁の戦闘術はかなり高等で、異能も強力ですよ!?そんな事が有りうるはずが……__」
「嗚呼、そうだな。“戦闘になったなら”、相手が太宰でない限り……殆ど無敵だ。……けど、敦じゃァないが……先日の“アレ”が有ったばかりだし、実際太宰の行方不明なのが、いつもより長い。殺されていないにしても……捕まっている可能性は有るんじゃないかい?」
青い顔のまま、そう分析する彼女に、国木田は「それは……。」と、言葉を濁す。
「……僕が太宰さんの件と合わせて、調べておきますよ。」
丁度出社したばかりらしい谷崎潤一郎が、少し微笑みながら、そう云う。
二人は、それぞれの仕事が有るが為に任せるしかなく、不安げに口を揃えて「任せた」と答えたのだった。
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作者名:業猫 | 作成日時:2019年6月13日 11時