第70話「代償」夢主 ページ23
「……いろは。」
「ごめん、ちょっと……。」
心配そうに声をかけるソルに、目を伏せながら返した私は、目の前で死んだように眠り続けている兄弟子……芥川さんの手を握っていた。
下顎骨剥離骨折、前頭骨・胸椎裂離、頸部靱帯損傷、上腕・大腿筋断裂、全身I度熱傷。
……そして、昏睡。
以上の症状が、任務失敗の代償である。
普段、私達はいがみ合っていた。
それはお互いがお互いの求めるものを持っていたからである。
私は太宰さんからの信頼を、芥川さんは自分から攻撃出来る強力な異能を。
けれど、だからこそお互いを尊敬し、評価しあっている。
いがみ合ってはいるが……仕事抜きで会えば、私達はただの仲のいい友人に過ぎないのだ。
「……芥川さん、ごめんなさい。私がすぐ近くに居たのに……守れなかった。ごめんなさい、ごめんなさい……！」
涙と共に、罪悪感と不甲斐無さが溢れて、視界を歪ませた、その時。
「……いろは。大丈夫か。」
背後の扉が開き、中也さんの声がして……私は心配させぬよう、何時もの笑顔を作って答える。
「中也さん……。……機嫌悪そうですね。」
「青鯖の野郎がな……。まァ、そんな事はどうでも良いンだよ。返事は？」
「……大丈夫です。」
私は中也さんの言葉に笑って返す……が、中也さんは依然心配そうに私を見つめている。
あの後、私達は芥川さんを探しに来た一葉ちゃんの船に乗り、マフィアまで戻ってきたのだった。
「……中原幹部、そろそろ……＿＿」
「嗚呼……じゃァな、いろは。責めすぎるなよ。」
中也さんはそう云いながら私の頭を少し撫で、部下を引き連れ……部屋から出ていった。
マフィアでは、任務失敗の影響で死に至る事や植物人間になる事なんて、日常茶飯事だ。
……けれど、それでも……＿＿自分が強者だと、同格以上だと認めた相手が目の前でこうなると……結構堪えるものなのだという事を、初めて知った。
「……もっと、強くならなくちゃ……。“求めるならば、強欲に”＿＿。」
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作者名：業猫 | 作成日時：2019年6月13日 11時
