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どうして、という思いだけが、頭の中を巡り巡っている。
落ち着いて。どうしたら。状況を整理しなきゃ。でも、こんなことって。
どうして夢から覚めないのか。どうして夢の中なのに、ソファの柔らかさも、ココアの温かさもはっきりとわかるのか。どうして、次元の向こう側の人たちが自分の目の前にいるのか。
いくつも点々と散らばっていた違和感が、線でつながっていく。
(一人の平凡な少女は、不幸にも命を落としました)
(しかしその魂は、次元を超えて飛ばされてしまったのでした。)
なんて、そんなありきたりでありえない話。
けれど一度頭で考えてしまえば認めざるを得なくて、『結論が出たから役目は終わり』とでも言うように脳みそは動くのをやめてしまった。
「わ、わたし…ひとりになってしまって、…誰もたよれなくて、なにも、わからなくて…」
言葉が出てこなくて、うまく話せない。きっとほとんど伝わっていないだろう。俯いてぽつりぽつりと呟く私に、天馬くんと女性の視線が痛いほど突き刺さる。
これから私はどうすればいいのだろう。どうやって暮らしていこう。そもそも、私はどこへ行けばいいんだろう。問題はいくつも浮かぶのに、ショートした脳みそがそれらをすべてはじき返す。
「それなら、うちにいればいいわ」
女性のなだらかで優しい声が、すっと頭に入ってきた。驚いて顔を上げる。
「頼るところがないなら、この木枯らし荘で暮らせばいいのよ」
「…木枯らし、荘？でも、私、お金なんて」
「ああそうだわ！私はここの管理人をしているの。やることが多くてちょっと困っていたのよね」
「お金はいらないから、お手伝いさんがいてくれたらとっても助かるんだけどなあ」と、私が何か言うのを遮るように女性は続ける。
この人は、今知り合ったばかりの、どこの誰かも分からない私を助けようとしてくれているのか。私が負い目を感じないように『お手伝い』という条件をつくって。
「それいいね！木枯らし荘は面白くてにぎやかな人ばっかりなんだよ！君が入居してくれたら、みんなすっごく嬉しいと思うよ」
もちろん、おれもすっごく嬉しい！
天馬くんはそう言って、太陽みたいににっこりと笑った。
ああ、なんて優しい人たちなんだろう。私はここにいてもいいのだろうか。甘えてもいいのかな…
「ありがとう、ございます。お世話になります」
深々とお辞儀をすると、二人は「こちらこそよろしくね」と微笑んだ。
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作者名：飯 | 作成日時：2021年9月2日 22時
