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秋さんは、優しく私に語りかける。
「テレビは自分の部屋で見てもいいし、ここでも天馬の部屋で見てもいいのよ」
「え、ど、どうして」
「この何日か一緒に暮らして思ったの。Aちゃんは、何か理由がないとここにいちゃいけないって、思っているんじゃないかって」
は、と息が一瞬止まる。自分の思いをそのまんま指摘されたから。
秋さんは、そっと両手で私の頬を包んだ。彼女の手の温度が顔に伝わる。
「お料理もお洗濯も、気持ちが乗らないときはやらなくったっていい。Aちゃんは好きなことをしていいし、好きなところにいていいの」
理由なんかなくても、ここに居ていいのよ。
「、」
つんと鼻の奥がしみて、うまく喋れない。
「わたし、ここにいていいの」
「当たり前じゃない!私も天馬も、Aちゃんと一緒にいたいの。ここにいてほしいのよ」
ぽろ、と顔が水でぬれる。秋さんが目を丸くしているのを見て、自分が泣いていることに気づいた。秋さんは何かをこらえるように微笑み、頬を包んでいた手で私の涙をぬぐう。
「あ、あれ。ごめんなさい。ごめんなさい、」
「いいの。いいのよ」
ぎゅう、と強く抱きしめられた。あたたかくて、優しくて、ふんわりといい匂いがした。
「…でも、私、少しでも秋さんと天馬くんに返したい。こんなにお世話になってるんだもん」
「…そう?」
「うん。それに、秋さんと一緒に料理するの楽しいし、天馬くんと3人でご飯を食べる時間が好きだよ。だからたくさんお手伝いしたい」
「…ありがとう。嬉しいわ」
お手伝いをしているという意識すらすでにないほど、私はここでの暮らしが幸福だった。お礼の気持ちを少しでも返したい。少しでも、このやさしい人たちの役に立ちたい。
「遅かったねー」
「そうかな?」
部屋に戻ると天馬くんは黙々と段ボールを解体していたので、少し赤くなってしまった目元に気づかれずに済んだ。
「…ねえ、天馬くん」
「なに?」
「これからも、天馬くんの部屋に遊びに行ってもいい?」
「いいに決まってるじゃん!なんでそんなこと聞くの?」
天馬くんは間をあけずに答えた。
「…ありがとう」
「?うん!」
よくわかっていないのだろう。「へんなのー」とにこにこ笑って言う天馬くんが可愛らしくて、思わず笑みがこぼれた。
得体のしれない私を受け入れてくれたやさしい人たち。
今は無理でも、いつかすべてを話せる時が来るだろうか。
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作者名:飯 | 作成日時:2021年9月2日 22時