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部活が終わり、辺りは少し暗くなり始めている。天馬くんと同じ場所に帰る私は、葵ちゃんたち1年生に誘われて一緒に帰ることになった。会話に混ざるのはなんだか悪くて少し後ろを歩く。
「信助くん、小テスト返ってきた?」
「まだー。僕今回やばいよ」
「ちゃんと勉強しとかないからそんなことになんだよ」
「何言ってんの!狩屋だってテスト中唸ってたじゃん」
「うげっなんでそれ言うんだよ!」
楽しそうに話す彼らが微笑ましくて、思わず笑ってしまう。何気ない会話をする彼らは、元の世界の友人たちとなにも変わらない。きっと、アニメやゲームでは切り取られる部分であろう些細なやりとりを、目の前で繰り広げている。
ああ、夢でもなんでもない。私は本当に別世界にきてしまったんだ。元の世界の人たちには、もう会えないんだ。何度目か分からない実感がわいた。
じゃあね、と手を振ってくれる葵ちゃん、信助くんや狩屋くん、そして輝くんに手を振り返す。気づいたら天馬くんと二人きりになっていた。ふいに隣を歩く彼から名前を呼ばれる。
「サッカー部、どうだった?」
昨日、今まで通りの話し方が良い、と言ったら彼はそれに応えてくれた。私にそう問いかける天馬くんの顔は、どこか期待しているようだった。「すっごく楽しかった!」と返すと、彼はまた嬉しそうにはにかんだ。
「ねえっ、サッカー部入ってみたくなった?葵もね、Aと一緒マネージャーやりたいって」
「そう…そっか」
ぴたりと自分の足が止まる。自然と視線が下に向いてしまう。天馬くんも、不思議そうに私に合わせて歩くのをやめた。
「…わたしが、サッカー部に、皆の中に入ってもいいのかな」
私の小さな呟きを、天馬くんは聞き取ったのだろう。「…なんでそう思うの?」と、トーンの下がった声で問われる。
「だって、」
今のサッカー部の皆は、とても強い…言葉では表現できないほど固い絆で結ばれている。それは、うろ覚えのアニメの記憶だけじゃない、実際に近くでサッカー部の皆を見てそう感じたのだ。そんな中に、よそ者の私が入ることは許されないような気がしてならなかった。
それに、一人だけ生き残った私に…あの子を守れなかった私に、何かを楽しむことなんて。
「…わたしは、入っちゃだめなんだ」
「入っちゃだめなんてこと、絶対ないよ。」
そう言うと同時に、天馬くんは正面から私の手を握った。
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作者名:飯 | 作成日時:2021年9月2日 22時