ここはロマンス大通り【ars】 (ページ31)

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鼻唄なんか歌いながら、彼はブレンダーの中に牛乳とバナナを入れてミックスジュースを作ってる。

その姿も妙に可愛らしいんだけど、私、今そこそこ真剣な相談をしたよね？
何故ミックスジュース？

出来上がったジュースを両手に持って戻ってきた二宮くんが、ソファには座らず私の隣に座った。

「どうぞ」
「ありがと...」

ミックスジュース...と言うよりはバナナオレなそのジュースを飲んで彼を見ると、ゴクゴクと喉仏が上下してる。

髭もだけど、この喉仏も二宮くんのオトコアイテム。
いつも、この喉仏にはドキッとしてしまう。

「で、Aはどーすんの？」
「どーするって...あぁ、家？」
「家のこと、相談しに来たんでしょ？」
「そうなんだけど...。まぁとりあえず不動産屋さんに行くよ」

二宮くんが設計事務所で働いてるからって、私は勝手に色んな物件を知ってると思い込んでたけど。
よく考えたら、彼の言う通り斡旋業はしてない。

自分の力で何とかしなきゃ。

「何かごめんね！あ、ジュース美味しかった！」

ありがとう！って空になったコップを二宮くんに渡して立ち上がる。

「え？もう帰んの？」
「うん、早く不動産屋さん行きたいから」
「そんなの行かなくて良いじゃん」
「いや...ノンビリしてると、私宿無しになるから」

春までの猶予があるって言っても、入学シーズンになると物件って一気に埋まるって聞くし...
もしかすると今なら交渉すれば諸々お安くして貰えるかもしれないし！

「オレはこの時を待っていた」

玄関に向かおうとしてる私の背中に、二宮くんが言い放った。
はぁ？と振り返ると、彼はニィっと笑ってる。

「...何言ってんの？私、結構ピンチなんだけど」

さすがにちょっとイライラ。

「本当は5年だったんだっけ？Aが家を借りれる期限」
「うん...そうだけど。でもそれはもう良いの、仕方無い事だし」
「その5年が終わらなきゃ言えないかなー？って思ってたんだけど」
「何を？」

近付いて来た二宮くんが、私の手を引いてソファに座らせた。
帰ろうとしてたのに。

「Aさぁ」
「うん」
「ここに住めば？」
「ここって...ドゥパレ？」

あ、もしや空き部屋がある？
そうか、ここは二宮パパのマンションだからそーゆー情報は彼も知ってるのか。

でも、そりゃここに住み続けられるのが一番だけど、そもそもこのマンション分譲だし。

「...私には無理だよ」

もし賃貸にしてくれたって、絶対お高いもん！
無理だー。