ここはロマンス大通り【ars】 (ページ21)

今日:85 hit、昨日:11 hit、合計:1,321,288 hit

３ページ21

食事を終えて、桐山くんが持ってきてくれた食後のコーヒーを飲んでると

翔さんが「いかがでしたか？」って近付いて来た。

「美味しかった！お肉、久々に食べたから」
「お前、普段何食ってんの？ちゃんと食ってんの？」
「え...何で？」
「痩せたから」

言われて、確かに少し痩せたかもしれない...と思う。
新しく友達と始めた仕事が忙しくて、お昼ご飯抜きなんてザラになってたから。

「ちゃんと食えよー？」
「翔さんは、食べ過ぎないでね？」
「それは難しい話だよな、食いだおれの街に住んでんだもん」
「フフッ、開き直った」
「大阪での寂しい一人暮らしで楽しみと言えば、食うこと位」

そう言った翔さんが、テーブルにカチャンと音を立てて何かを置いた。
何を置いたのか見たいけど、翔さんの手がその何かを押さえたまんまで分からない。

「俺、まだ仕事だからさ」
「うん」
「先、帰っててよ」
「.....え？」
「まさか、日帰りだとか言う？」

肩眉を上げて、意地悪な顔をする。

ふるふると首を振ったら、翔さんがテーブルから手を離した。

そこに残されてたのは、家の鍵。

「うち、泊まるでしょ？」

そのつもりでは、いた。
突然だったしもし無理だったら、ホテルに泊まっても良いって思ってた。

「俺のマンション、わかるよな？」
「...うんっ」

引越しの手伝いに来た時に、これから1人でも来れるように...って必死で道を覚えたもん。

「じゃ、これ。鍵。部屋散らかってるけど、まぁ気にする所じゃないか」
「うん、慣れてる」
「フハハッ！あ、クーラーとか勝手につけて良いから。ってか、つけてて」

それだけ言うと、新規のお客さんが入って来た気配に翔さんが反応した。

「悪い、俺行くわ」
「うん。じゃあ、あの、先に帰って待ってます...」
「ん、気を付けて帰れよ？」

ポン、と私の頭に掌を乗せて

翔さんは仕事に戻って行く。

大きな掌が乗ってた部分に、自分の掌を当ててみると

顔がゆるゆるになってしまう。

こんな事でも、自分がどれだけ翔さんを好きなのか思い知らされる。

お店からの帰り道は、何だか足元が浮いてるような気分になってた。

必死で覚えた甲斐があって、マンションまでもすんなり着いて

渡された鍵で、ドアを開けるのはやっぱり妙に緊張した。

1度だけ来たことのある部屋の玄関は、翔さんの香水に煙草の香りが混ざった匂い。