ここはロマンス大通り【ars】 (ページ12)

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通学路の金木犀が良い香りを放ち始めた頃

私は一つ、悪巧みをした。

朝、交番の前を通ったら潤さんは交番の中で何か書類を書いてるようだった。

彼がこっちを見てないのを確認して私は鞄の中から生徒手帳を出して桜の樹の下にソっと置いてから学校へ行った。

もし、あれを潤さんが拾ってくれたら...

私が帰って来るのを、外で待っててくれるかもしれない。

もし、違う人が拾っても「落し物届いてるよ」って声を掛けてくれるかもしれない。

そんな『もしも』を考えて、ほんの少し先の未来を想像してた。

その日の、あれは確か五時間目と六時間目の間の休憩だった。

友達と喋りながら何となく窓から外を見てたら

校門の前で潤さんが守衛さんと喋ってるのが見えた。

「...えっ...！？」

私の声に、周りの友達も窓の外を覗く。

「うわっ！あれ、イケメンポリスじゃん！」
「えっ！？駅前の！？何でここに居んの！？」
「ヤバーイ！格好良い！」

潤さんの存在は、当然みんなも知ってて

そんな人が突然学校に来たから、みんな大騒ぎで

でも私はドキドキしてる胸を押さえて、叫びそうになる口をもう片方の手で押さえた。

校門の前では守衛さんに会釈した潤さんが門をくぐって、校内に入って来た。

みんなの騒ぎはもっと大きくなる。

その騒いでる声に気付いたのか、潤さんが校舎の方に顔を上げた。

そしてキョロキョロしたと思ったら、二階の窓から覗いてる私と目が合った瞬間

ニコっと笑った。私に、笑ったんだ。

崩れ落ちそうになってる私に向かって、潤さんは右手で指差しして、左手で生徒手帳を挙げてユラユラと揺らした。

「落し物ー！」

大きな声でそう言ったと思ったら今度は「取りに来てー！」って手招きされる。

私はうん、って大きく頷いて教室を飛び出た。

廊下を走って、階段を駆け降りて、上履きのまんま潤さんの所まで走った。

「...ポリ潤...」
「これ、交番の前に落ちてたよ」
「...うん...」
「こんな名前も写真もあるモン落としたら、また悪いオトコに拾われて追っかけられるよ？」
「......」
「あ...思い出したくないよな、ごめんごめん」

ううん、って首を振って応える。

「帰りでも良かったのに...」
「どうせパトロール中だったし」
「...ありがと...」
「どういたしまして」
「ねぇ...ポリ潤、ホントは...」

わざとだったの。

そう言おうとしたら、六時間目が始まるチャイムが鳴った。