SideStory -7 ページ29
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確かたんぽぽの花言葉の中にこんなのがあったよなと俺は思い出す。
思わせぶり、なんともこいつにぴったりじゃないか。
いくつかあるたんぽぽの花言葉を思い浮かべながら俺はほんの少しだけ少女へと身体を寄せた。
今はみんなが花火を見ている。
少しくらい近づいたって、誰も気づきやしない。
「あ、潤くん帰ってきた」
少女の言葉通り人の向こうから松本かがやってくるのが見える。
ほんのわずかな二人の時間はこうしてあっさりと無くなってしまう。
「ほらA、綿あめだ」
「ありがと潤くん。一緒に食べよ」
「言われなくても食うよ」
「ほら、二宮先生もいるなら食べていいよ」
「……とりあえずいいや」
やっぱり少女はたんぽぽに似た雑草なんかじゃなくてたんぽぽそのものかもしれないと今の俺は思う。
ちょっと天邪鬼なそいつは春に咲くのを忘れて夏に咲いて見せて、簡単に俺に自分を見つけさせる。
あるいは遅れて咲いたその花を俺がそいつに差し出せば少女は笑ってくれたりするだろうか。
……いや、それは無理か。
サボリ魔のこの少女にたんぽぽの知識があるとは思えない。
それでもなお、俺は知らないかもしれないその花の意味を差し出すことをためらってしまう。
神託、真心の愛、思わせぶり、別離。
何を取っても俺と少女にぴったり過ぎて、俺はそっくりに花開く花火からそっと目をそらした。
たんぽぽの季節はとうに終わってしまったというのに。
この夏の終わりを望むころに目をそらすことしか出来ない俺はまだ蜃気楼のように揺れる夏の陽炎に失敗した綿毛の恋占いを透かして捨てられずにいるのかもしれない。
これは俺と少女が恋人だった、とある短い夏の終わり。
(サマーダンデライオン)
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月6日 16時
