SideStory -6 ページ28
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松本の戸惑う声に少女はパスンパスンとヨーヨーを幾度か叩いて、それから「はい」と俺に犬のぬいぐるみを押し付けた。
「おい石動、これなんだ」
「ちょっと持ってて先生。ねぇ潤くん、綿あめ買ってきて」
「……でも」
ちらりと松本が俺を見た。
たぶん俺と二人にしたくないんだろう。
この少女にしては大変できた幼馴染である。
「いいじゃん。こっちの出入り口の傍にあったよね、綿あめの屋台」
「あったけど」
「お願い潤くん」
「……はぁ、わかったよ」
松本はため息を吐くと少女が差し出した小銭を押し返して小走りに屋台の方へと向かっていった。
やっぱり松本はこの世に何人かいる少女のお願いを断れない一人である。
真っ白いたんぽぽの綿毛のような綿あめ。
遠い昔、恋人だった彼女が教えてくれた占いをふと思い出した。
なんでもたんぽぽの綿毛を一息で吹き飛ばすことが出来たら恋が叶うとか、そんなあいまいな恋占い。
ヨーロッパ地方ではたんぽぽは占いの道具だったんだそうだ。
今の俺にそれを試す勇気はないけれど。
最も、今は夏。
たんぽぽの綿毛なんてどこを探したって見つからない。
「綿あめ、まだ食べたりなかったわけ」
今日初めて訪れた二人きりの時間に俺はそんなどうでもいい言葉を吐く。
「ううん、別に」
「じゃあなんて松本に買いに行かせたんだよ」
「だって、先生と夏祭りに行くのにずっと潤くんが一緒じゃデートにもなんないじゃん」
「っ、」
こっちをちょっとだけ見上げて淡々とそう言って、少女は俺の返事を待たずにまたパスンパスンとヨーヨーと鳴らした。
「あ、ほら先生、花火はじまるよ」
少女の言葉通りアナウンスが流れひゅううと特有の音を上げながら花火の種が空へと飛んでいく。
パァンと派手に音を立てて咲いた花は、どことなくたんぽぽのそれに似ているような気がした。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月6日 16時
