18日目 ページ19
別に嫌いなわけじゃない。
これは本当に。
ただ、僕ではこの子を。
この子の心を守り切れないと
そう確信しただけなんだ。
『ごめ、な、さ…』
泣き疲れて眠るAは、寝言ですら僕に謝っている。
目元は痛々しく腫れて、鼻が詰まっているせいで口呼吸になった吐息がたまにしゃくりあげる。
相変わらず僕の腕枕の中で、僕に背中をとんとんされて
困ったように、安心したように眠っている。
「Aは俺とどうなりたいの…?」
きっともうAの中でも、僕との関係になにか肩書を付けようとしても
なかなかうまい言葉が見つからないんだろう。
僕たちはただの元カレと元カノで
Aの引っ越し費用がたまるまでルームシェアをしているだけで
…お互い都合よくキスをして、こうやって眠る。
嫌いなわけじゃない。相変わらずずっと可愛いし。
本当に。人として好きだけど。
多分、家族になってしまった。
毎日付き合い立てのカップルのように「愛してる!」って溢れては来ない。
たまぁに、ごくたまに「愛おしいなぁ」って、そう思えるくらいの関係が心地よかった。
それで、Aは物足りなかったわけだけれど。
「はぁ……」
起きだしたらきっと喉が渇いているだろう。
起こさないようにAの首元から腕を抜いて、ゆっくりとベッドの天蓋から抜け出す。
のそのそと冷蔵庫から持ち出したペットボトルのお茶をAの枕元に置いた。
今日はもう曲を作ろう。
こんな空っぽな心を埋めるような曲を作ろう。
作業に没頭してしまおう。
僕たちは別れているんだ。
もう、「愛おしい」なんて思っちゃいけない。
Aに悟られるわけにはいかない。
『残酷なこと言うね』
ふと、好きなままで居てもいいと言い放った時のAの声を思い出した。
嫌に、耳から離れてくれない。
「Aこそ、残酷なことするじゃんか…」
吹っ切れてないのは、僕の方か。
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宵闇 ルア(プロフ) - もう一回見てみたんですけど、最後のかつて彼氏だった彼の声のところの後に出てきた人はまふくんじゃないかなって思ってます (2023年1月8日 22時) (レス) @page41 id: d7473b096e (このIDを非表示/違反報告)
涙靜(プロフ) - 見つけてくださって、ここまで見守ってくださって、本当にありがとうございました!思い出した頃にまた振り返っていただけたら嬉しいです! (2022年12月6日 23時) (レス) id: 82f86f91ed (このIDを非表示/違反報告)
Ruriyuri - 私いろいろな界隈の小説を読んでいるのですが、とても久しぶりに心に来る小説を見付けました。本当に珍しいことでこのような小説に出会えてとても嬉しいです。とても感動しました。 (2022年12月5日 21時) (レス) @page41 id: 825b0bc841 (このIDを非表示/違反報告)
涙靜(プロフ) - おみさん» 最後までお付き合い頂きありがとうございました!泣かせるぞ〜!と思って書いてたので、本望です笑ありがとうございました! (2022年12月1日 1時) (レス) id: 82f86f91ed (このIDを非表示/違反報告)
おみ(プロフ) - 完結おめでとうございます!すごい泣きながら読みました (2022年11月30日 22時) (レス) @page41 id: 284adcf210 (このIDを非表示/違反報告)
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