参 前 ページ7
紫鶴side
あの感動の瞬間はなんだったんだ？
そう考えてしまうのも仕方ないほど、俺はどうしようもなく『鶴丸国永』だった。
どこが変わったか、と聞かれると「名前かな」としか答えられないくらい変わってない。
見目もそのまま。
若干紫外線に弱くなったが多少肌の弱い人くらいのもんだし、「顔面詐欺」だと笑われた儚げ(笑)フェイスも健在だ。今は肉体年齢が追いついてない分さらに少女めいて見えるらしい。
そして肝心の中身だが…
ここが問題だ。なんと俺の自意識は刀のままで、成人前にしてすでになにかが斬りたいという衝動に襲われている。さらに言えば血湧き肉躍る体験を求めている。むしろ血を浴びたい。
他にも居ただろ…江雪とか！あいつなら喜んで和睦の道を説いてくれただろうに！
なんでよりによってバリバリ実践刀の俺！
それにいくらこの土地の治安が悪くても、善良に暮らす高校生がそんな機会に恵まれることはまずない。
あーあ。なんか裏社会のいざこざにとか巻き込まれねえかなー。
そんなことを考えていると隣の路地で声が響く。
「あっちだ！！追え！」
「逃すんじゃねえぞ！」
少しでも可能性を上げるために裏路地を下校路に選んで居たんだが、その努力が報われたらしい。
俺の運も捨てたもんじゃないな。
袋小路に先回りして塀の上からこっそり顔を出す。
(ヒュー！拳銃だとかこの国の銃刀法はどうなっちまったんだ！)
俺は、逃げることもせずに、魅入られたようにその一連の動作を見ていた。
腕を上げ、セーフティを解除し、引き金を引く。そして、溢れる血。
心の奥底に響く赤。人斬りの道具としての根幹に触れる色。十何年ぶりかの懐かしき風景。
一瞬意識が飛んで居たかもしれない。ハッとして姿勢を直すと足元の砂利を踏んでしまったらしい。
ジャリ、と擦れる音が空間に響いた。
(やっべ)
「！？誰かいるぞ」
「逃げられる前に口を塞げ！」
見つかってしまっては仕方がない。
ふわふわした気分の中塀から飛び降り、躊躇いなくポケットに入っていたカッターナイフの刃を出した。
俺が今からするのは『人として』いけないことだ。
ああ、でも。
ー彼らはヒトゴロシの悪人だからー
そう自分の行動を正当化し、視線を上げる。
目が合うと、男は一歩退いた。
目の中の俺は瞳孔は開いているし、口角は上がっている。正直マトモな顔をしていない。
そして、昂ぶった気分のまま思い切りカッターを振り上げて、
そのままー
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作者名：トイプードル | 作成日時：2018年10月30日 8時
