episode18秋side ページ18
.
空全体に対する雲量は、だいたい1割くらいだった。
たまに冷たい風が吹くけれど、日光が暖かい。
北風と太陽という童話を思い浮かべながら、俺はスースーする足元を見つめ壁に寄りかかっていた。
「早川きたよ」
「わかった。5分経ったら電話する」
「了解。気をつけて」
「おー」
LINEでそんなやり取りをしてから早5分。
幸太郎に電話をかけると、電話口をおさえて「ごめん早川くん、先行ってて。時間かかりそう」と言うのが聴こえた。
作戦通りだ。
このまま、幸太郎が電話で合図を出し、俺がわざとぶつかってカフェへ〜みたいな流れを作る予定だ。
早川のわかった、と答える声が聴こえて、砂を踏むようなじゃりじゃりとした音がする。
幸太郎は電話の相手と離しているように振る舞い、早川に声が聴こえないくらいの距離ができると、俺に言った。
「予定通り、えっと……あと300mくらいかな。待機してて」
「了解。あ、足音したから電話きるな」
ぷつっと電話を切り、深呼吸をひとつ。
緊張というのは、俺には不似合いな言葉だ。
いや、今はもう俺じゃなくて私か。
佐藤ふたば、それが俺の名前。
「ふう……佐藤ふたば」
練習した女声で自分の名前を再確認する。
足音が近づいてくる……そろそろ早川がここを通るのだ。
さぁ、飛び出そう__
「わ……っ!?」
早川にぶつかったのではない。
ハッとすると、走り去る小学生の姿が見えた。
俺が早川にぶつかるはずが、それより前に俺がぶつかられたようだ、あの小学生に。
尻もちをついた俺に影がかかる。
「……大丈夫、ですか?」
「あ……」
早川に、声をかけられた。
きょとんとしたこいつは、俺に手を差し伸べている。
__計画は常に少しの狂いが生じるものだ__
ここは臨機応変に、行け! 佐藤ふたば(俺)!
「ご、ごめんなさい……!」
「いえいえ。それより怪我は?」
差し伸べられた手を借りて立ち上がると、早川は人の良さそうな笑みで言った。
少女漫画ならここから恋が始まるのだが、俺の場合は故意に始まるよう仕向けるのだ。
恋だけに。
……寒いな、忘れよう。
episode19秋side→←episode17秋side
29人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
綾音日和。@たこむし(プロフ) - 柚李さん» ありがとうございます! 更新頑張ります! (2017年2月21日 19時) (レス) id: 61bdcd300b (このIDを非表示/違反報告)
柚李(プロフ) - テストお疲れ様です! これからも更新頑張ってくださいね! 応援してます♪ (2017年2月21日 17時) (携帯から) (レス) id: 08c9ef1253 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:綾音日和。@たこむし | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/aromalight2/
作成日時:2017年1月19日 21時