恋は盲目、愛は執着【青の祓魔師】 (ページ10)

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第9話山桜に憂鬱をページ10

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車を走らせたどり着いたのは、正十字学園だった。
正十字学園町にある、あらゆる学業施設が集約された名門私立校。
Aはこの春から高等部に通う。

全寮制なので家族が兄1人というAにとって好条件であった。
Aが寮に住むことで兄は気兼ねなく仕事に集中できるというメリットがある。
とはいえAの兄は以前、Aが事故にあってからというもの
過保護に拍車がかかってしまっており全寮制でも不安らしいが。

「……A。俺はずっと側にいる。お前を置いて何処かに消えたりなんて絶対にしない。
　何があろうと、お前の側を離れることはない。だから――安心して、学園生活を楽しんでこい」

『いや重すぎ。…まあ、目立たない程度に楽しむよ』

そう云ってAはドアを開け車から出た。

学園へと誘う、咲き誇る花びらを風に揺らす桜並木。
見惚れるほど美しい桜の花。
Aは眩しげに眼を細め、穏やかな表情でゆったりと歩きだした。

―――兄にはああ言ったものの、正直Aは学校というものに通いたくはなかった。

理由は1つ。
自分の年齢が28だから。
今年で29になる、もういい年の女なのだ。

いくら自分の顔が実年齢よりも若く見えるとはいえ、
流石に15、6の少年少女の中に混ざっても違和感がないほど幼い顔立ちはしていない。

Aは日本に住んでいるが両親は日本人とフランス人。
所謂ハーフであり、その整った顔立ちは日本人というより外国人に近い。
日本の血も混じっているためそこまで堀が深いわけではないがぶっちゃけ、かなり目立つ。

Aは思った。
“交通事故にあっていなければこんなことにはならなかったのに”と。

12年前、Aは車に轢かれ昏睡状態に陥っていた。
12年もの間、1度もAは目覚めることはなかったのだ。
それでも兄は目覚めない妹を見限ることはなく、働き入院費を稼いでくれた。

意識が戻った時、Aは働いて兄に恩返ししようと思った。
兄妹といえどこんなに尽くしてくれる相手はそういない。
Aはそのことを嫌というほど知っていたから。

しかし、リハビリを終え普通の生活が送れるようになったAに兄が求めたのは、
働くことではなく、本来行くはずだった高校に通うことだった。
Aは望んでいなかったが、兄(スタンダール)のためなら、と入学を決めた。

入学式場でAは自分の指定された席を見つけるとゆっくりと腰をかけた。