レ ン タ ル 彼 氏 ≪ Daiki.S ≫

レンタル37. ページ37

あれから私は淡々と仕事をする日々を過ごした。

重岡さんからも淳太くんからも見捨てられた私に残されたものは仕事だけだ。









『明日は休みやけど仕事行こうかな……』



重岡さんがレンタル彼氏をやめてから一か月。

仕事漬けの毎日を過ごしていたおかげもあってか重岡さんのことも忘れかけていた。




あの後私はすぐにレンタル彼氏のアプリを消した。

そして淳太くんとは仕事でも一切会話を交わさなくなった。









せっかく好意を寄せてくれていたのに。

重岡さんのことも淳太くんのことも自ら手を離した。




レンタル彼氏のこともきっとあっという間に忘れる。

果たして私は重岡さんのことをはっきり忘れられるときが来るのだろうか。









「Aは相変わらず仕事ばっかりやな、休みの日ぐらい休めばいいのに」


『仕事入れとかな落ち着かへんねん、休んでもすることないし』



今は桃花の家で宅飲みをしている最中。

色んなものがなくなったけど桃花との飲み会はなくならなかった。




…私に残された唯一の安心できる場所だ。









『桃花はお兄ちゃんとは連絡取ってないん？』


「多分もう見捨てられたんやと思う」



そう言ってお酒を一口飲んだ桃花。

そんな桃花にこれでもかというほど胸が痛くなった。





……見捨てられた。

私と同じだ、私は重岡さんに見捨てられた。









≪ 桃花のほんまの姿初めて見た ≫


≪ ……めっちゃ可愛いと思った ≫



でも桃花は違う、私と違って桃花はお兄ちゃんに見捨てられてなんかない。

お兄ちゃんはあのとき桃花のことを"可愛い"と言っていた。







慌てて"違う"と言おうとしたときインタホーンが鳴り響いて。

"誰やろ"と言って玄関へ向かった桃花の後ろ姿を私はしばらく見つめていた。









「ちょっと！いきなり何なん！！」


「……桃花に会いにきた」



ずかずかと家の中に入ってきたのは紛れもなくお兄ちゃんで。

鬱陶しそうにしている桃花だったがどこか嬉しそうにも見えた。









『お、お兄ちゃん……』


「Aおったんか、今ちょっと大事な話するから」



『いやいや…お兄ちゃん…靴が……』


「え？靴って……あ」









そう言ったお兄ちゃんはやっと自分が靴のまま家の中に入っていることに気づいて。









天然の度を越したお兄ちゃんの行動に思わず笑みが零れた。

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