新 人 執 事 ≪ Daiki.S ≫

執事42. ページ42

あれから数日後。



重岡がいなくなってから私の生活はとても退屈になった。

何も変わっていない生活のはずなのにぽっかり空いた穴は埋まらなかった。









「A様、おはようございます」


『神山、おはよう』



神山は私が結婚式を終えた後、執事を辞めることになった。

重岡が来る前までと変わらない朝なのに。



神山がいつもカーテンを開けて起こしてくれるのが大好きだったはずなのに。

勢いよく飛びついて私を起こしてくれる重岡が恋しく感じるのはなぜだろう。









「A様、朝食ができております」


『……分かった』



結婚式が終われば小瀧さんの家で正式に暮らすことになる。

執事だってもう必要なくなるし両親にも会えなくなる。



この家からも離れることになる。









「今日の朝食はフレンチトーストでございます」



そんな声と同時に目の前に置かれたフレンチトースト。

その瞬間忘れていたはずの気持ちが溢れ出てきそうになってしまった。






このフレンチトーストは重岡の大好物だ。

毎朝フレンチトーストが出る度にシェフに頼んで私の横で口いっぱいに頬張って。



そんな重岡はもう見れない。







タキシードをくしゃくしゃに着こなす重岡も制服に勝手にメモを入れてくる重岡も

シュークリームを勝手に触る重岡だって。



パンケーキを一緒に作ったり一緒に買い物に行ったりガーデンで水の掛け合いをしたり。

パーティーの日私を助けてくれた、買い物した日私を助けてくれた。




重岡はいつも笑っててあまりにも笑うから私もつられて笑っちゃって。

重岡のくれたもの全部が宝物で、全部が私を幸せにしてくれた。









『……美味しい』


「ふふ、なら良かったです」



目の前にあるフレンチトーストを一口食べれば口いっぱいに美味しさが広がって。

こんなに美味しいものを食べたのは久しぶりで思わず涙が溢れ出そうになってしまった。








「今夜小瀧家のパーティーがありますが準備はできましたか？」


『あぁ、そっか…パーティーか……』



正直パーティーなんて行きたくない。

でも自分勝手な気持ちで小瀧家の方たちや望さんのことを傷つけたくない。









≪ あ、そういえば今度パーティーがあるんやけどAさんも来てくれへんかな？ ≫









そんな望さんの言葉を思い出して私は慌てて準備をした。

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