家 庭 教 師 ≪ Daiki.S ≫

教師32. ページ32

私はその場でしばらく立ち尽くして。

目の前の光景になかなか頭が働かなかった。









しばらくぼーっと見つめていると遠くにいた濱田さんと目が合って。

私に気づいたのか濱田さんはそのままこちらへ近づいてきた。









「こんなところまで来てストーカーか？」


『ち、違います！たまたまここ歩いてて…！』



ヘルメットを片手に持ってにやにやしながら私の目の前までやってくる濱田さん。

相変わらずの濱田さんに嫌気がさした。



これ以上濱田さんと話したくなくて。

帰ろうとする私を察したのか濱田さんは突然"あ〜"と言い出した。









「あの人今度から正式にしげの生徒になるねんて」



そう指を指した濱田さんの先にはさっきの人。

重岡さんと真剣に話しているお母さんらしき人はどうやら手続きをしているみたいだ。



……そっか、やっぱりそうなのか。









『別に私には関係ないですよ』


「あれ？もう諦めた感じ？」



"何やねん、もっと泣きそうな顔すると思ったのに"とつまらなさそうに呟いた濱田さん。

そんな濱田さんは器用に口笛を吹いていた。





そりゃあ泣きたい、今すぐにでも泣きたい気持ちは変わることはない。

でもここで泣くのはなんか違う気がするなって。









「ふはっ…案外すぐに諦めてくれて嬉しいわ」


『…私諦めるなんて一言も言ってませんけど』



楽しそうに笑う濱田さんにそう言い返せば濱田さんは"は？"とでも言うように私を見つめてきて。

私はそんな濱田さんから目を逸らすことなくただただじっと見つめた。









『私はこれからもずっとずっと重岡さんの好きという気持ちは変わりません！』


『泣くときは重岡さんと結ばれるときですから！！』



そう言って濱田さんの目をじっと見つめる。

目の前の濱田さんは驚いたように目を丸くしていた。



泣かない、私は泣かないもん。









「なんか変わったな、お前」


「この間まではずっと怯えた表情してたくせに」



そう言った濱田さんはとても動揺しているように見えた。

"ちっ"と舌打ちをした濱田さんは相変わらず怖くて。









『濱田さんもいつかそういう人見つかるといいですね』



そう言ってちらっと濱田さんの方を見つめれば珍しく濱田さんが目を逸らしていた。









「なんか…むかつく」









そんな濱田さんの声を聞きながら私はその場を去った。

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