アットレー振り回すな ページ12
「カツオの時期やなあ」
「魚偏に堅ね」
「松に魚」
「サバ科」
「一属一種のカツオ属」
「黒潮!」
「たたき?」
「知識の暴力すぎん?」
「これやから東大生は」
「東工大いるんだけど」
「早稲田を忘れないでくださいよ」
カツオを片手に包丁を握る新堂さんは自らのことを棚に上げて東大生を揶揄った。話題を提供したのは自分なのに。残念ながらそんな言葉は誰にも刺さらず、他大学からブーイングをくらうだけに終わる。
「んな訳で本日の賄いはカツオや、先着三名」
「よーし、お前ら拳出せ」
「伊沢は普通にジャンケンって言えないの?」
「福良さん、それが伊沢さんですよ?知らなかったんですか?」
「山本の謎伊沢マウント、いつも思ってるけど何?」
「さっき一口食べたけど美味かったからここは勝ちたい!」
「いい度胸じゃん、こうちゃん。ツマミ食いだなんて」
「貰ったんですよ!たまたまキッチン行ったらたまたま調理中の新堂さんが居たんで!」
「それホントにたまたま?」
「たまたまです!」
「とりあえずジャンケンしない?」
「ちょっと黙ってください須貝さん、俺はこうちゃんがツマミ食いした説を立証するので」
「ハイ、おたくらが静かになるまで2分かかったので三人分のカツオは乾達に行きました。アホやな」
「何ーーーーーッ!?」
俺とノブ、それから直井の三人によって食い尽くされたカツオを見た先輩達は唸り声にも似た声をあげた。思わず身を引くとアホ、と新堂さんはチョップを繰り出す。年下にダサいとこ見せるなや、と呟いた新堂さんに伊沢さんは首をすくめた。一口だけ食べたこうちゃんの首ねっこを須貝さんが掴んで揺らしている。バタバタと手足を振り回して抵抗するこうちゃんの体を擽る山本さんはケラケラと笑っている。河村さんの年齢差別反対!という声と福良さんの抵抗の意を示す旗を振るジェスチャーに、新堂さんは首を振って店に帰っていった。
残された高学歴による恨み辛みがこうちゃんからこちらに移りそうだったので三人で新堂さんの店に逃げ込むと、笑って出迎えてくれる。用意されていた三人分の美味いご飯を平らげる頃には拗ねた顔の先輩たちも合流して飲み会みたいになった。
煩くした詫びだ、と俺たち後輩組は新堂さんが奢ると言ったので有難く出された名前も知らない真っ赤な料理を頬張る。唐突に訪れた刺激があまりにも辛すぎて涙が出た。そんな俺を先輩たちは酒の肴にして笑い転げているので飛び火を許すのはやめることにした。
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マサ(プロフ) - また、近頃あまり見なくなった、インターネットを通して読む文章だからこそのギミックも感激致しました。素敵な作品をありがとうございました。長文駄文失礼致しました。 (2021年11月14日 21時) (レス) id: 3122429ec9 (このIDを非表示/違反報告)
マサ(プロフ) - はじめまして。この作品を見つけて一気に読ませていただきました。全体的に文章自体が読みやすく、私は料理に詳しくないのですがそれでも分かりやすく書かれており、ストーリーも大変面白かったです。 (2021年11月14日 21時) (レス) @page29 id: 3122429ec9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:狭 | 作成日時:2021年6月5日 0時