6︰禁忌を唱えて ページ6
中々彼は壇上に上がってこない。
「イルマくん!壇上へ!」
もう一声かけると、ようやく一人の小柄な少年が立ち上がった。
……小さい。
そして顔色が悪い。
冷や汗がだらだらと流れ、どう見ても“余裕の特待生”には見えない。
突然の無茶振りに巻き込まれた一般人、の間違いでは?
ざわ……と講堂が揺れる。
ひそひそと囁きが連鎖する。
壇上へと向かう彼の足取りは、どう見ても重い。
いや、重いというより震えている。
腕を組んだカルエゴが、低く吐き捨てた。
「……そのまま失態を晒せ」
祝福どころか最早呪詛に近い。入試免除という事実が、彼の中でいまだ消化されていないのだろう。
一方で、Aの目は真逆に輝いていた。
さて……どうするのか。
修羅場でこそ、その本質は出る。怯えたまま終わるのか、それとも――
壇上に立ったイルマは、完全に固まっていた。口を開こうとしては閉じ、視線を泳がせる。
そしてふと、手にしていたポスターの裏に何か書かれていることに気付く。震える手でそれを見つめ、意を決したように――読み上げた。
「あべるはぅけ たるとぅだり…いうさべべ、」
教師陣の顔色が変わった。
「……は?」
「まさか」
「なんで禁忌呪文を?!」
空気が凍りつく。それは、初等部どころか上級悪魔ですら迂闊に扱わない“禁忌呪文”。少しでも詠唱を誤れば、術者に反動が返る危険な代物だ。
「馬鹿者がっ…!」
カルエゴが怒鳴ると同時に、教師陣が一斉に動いた。
教壇周囲に結界展開、魔力防壁を張り、更には最悪の暴発に備えて講堂全体を守る布陣が敷かれる。
そんな周囲の驚きを感じているのか、更に萎縮した様子で特待生は読み上げ続ける。
「すとぅまぬ あべるげ うる、まほらば つれざざ──」
結局彼は禁忌呪文を無事に唱え終わり、その様子を一部始終見ていた生徒たちから歓声が一気に湧き上がる。
特待生・イルマの評価が一気に爆上がりした瞬間だった。
壇上であたふたする彼に、複数の教師が駆け寄り、慌てて注意を始める。
少しでもしくれば死ぬ禁忌呪文──
本当に危険でクレイジーで最高に楽しかったとちょっと想像の斜め上な発言をするダリ先生にイルマが完全にドン引きな表情を見せている。
カルエゴが憤慨した様子で口を開く。
「なんだアイツはっ…!神聖な入学式を引っ掻き回しおって…!」
しかしそんな彼をちらっと見つつ、Aは言った。
『面白そうで…興味をそそられる子じゃん』
――今年も、きっと面白い。
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