6.暑さと熱さで逆上せる ページ6
熱に浮かされたように頭がぼんやりして、視界が揺れている。
腹部までかけられた布団さえも暑く感じて退ける。
寝返りをひとつ打つと、頭の下で氷がぶつかる音が聴こえた。
(あれ、氷枕)
自分で用意した覚えのない代物だが、ならば誰が用意してくれたのかということに心当たりはなかった。
先ほど、他の隊士たちは攘夷浪士を取り押さえるため屯所を後にしたところだ。誰か自分と同じように残っていたのだろうか。
怠さは残るが、動けない程ではない。首元のスカーフを緩めて、水を求めて自販機に向かう。
「何してんでィこの病人が」
がっ、と首根っこを掴まれ、振り返る。
「……あれ、沖田さん。いつ帰ったんですか?」
「いつも何も、とっくにみんな帰ってきてら」
室内にいたせいで気づくのが遅れたが、太陽はもう随分傾いて、空は橙色に染まっている。
「何処行くつもりだ」
「水を、」
「俺が買ってくるから部屋で待ってろ」
有無を言わさぬ半命令形で言い遣わされ、抵抗せずに自室に戻る。
(……沖田さん、私が体調悪いの気づいてたな)
『大人しくお留守番してなせェ』
『何してんでィこの病人が』
悔しいな、と思う。
こんな時に風邪をひく自分も、そんな自分にすぐ気づいてくれる"お兄さん達"にも。
守られてばかりで悔しい。苦しい。
熱のせいでじわりと涙が浮かんで、さっき蹴り飛ばした布団を引き寄せて頭まで被る。
すると、すーっと襖が開く音がして、足音が枕元までやってくる。
「ほら、水」
「……そこに置いといてください」
ぐずぐずな顔を見られまいと、布団をぐっと握りしめる。
一瞬の沈黙の後、ふはっと控えめな笑い声。
「いっちょ前に弱ってんなァ」
「うるさいですよ」
「な、顔見せろよ」
「駄目です」
「何で」
「見せれる顔じゃありません」
「昔っから見てきた顔だろ」
「駄目です。弱ってるんで」
お互い引かぬ攻防戦。
布団の向こう側から、ぽん、と額に手を置かれた突然の感触にどきりとする。
「……知ってるか?風邪ってのはキスしたら移るらしい」
「そんな訳ないでしょう」
「案外本当かもしんねェだろ」
聴こえる声は楽しそうだ。頭まで布団で覆っているせいで、沖田さんの顔は見えない。
「貰ってやろうか、その風邪」
「沖田さんに風邪ひかせる訳にはいかないんで遠慮します」
「釣れねェな」
それ以上、沖田さんからのコンタクトがないことにほっとして、瞼を閉じた。
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乙愛 - 草間さんのセリフにグッときたがワイは負けん…はっ!総悟!違う私は一筋じゃぁ (2018年12月19日 18時) (レス) id: 89a184ea87 (このIDを非表示/違反報告)
木ノ嶋(プロフ) - 乙愛さん» コメントありがとうございます。良い意味でキュッとして頂けたら幸いです。物語が徐々に動き始めてきましたので、どうか今後も見守ってくれたら嬉しいです。 (2018年12月10日 22時) (レス) id: 24579aa2d7 (このIDを非表示/違反報告)
乙愛 - なんか、心臓キュッってなりました。( ・∇・)きゅーん (2018年12月7日 22時) (レス) id: 89a184ea87 (このIDを非表示/違反報告)
木ノ嶋(プロフ) - アルハさん» 本当に嬉しいお言葉、ありがとうございます。受験生なんですね…この作品で、少しでもアルハ様の応援が出来たらいいなと思っております。ありがとうございました。 (2018年11月28日 7時) (レス) id: 24579aa2d7 (このIDを非表示/違反報告)
アルハ(プロフ) - 受験生の身でありながらついぶっ通しで読んでしまいました・・・笑上から下までタイプですありがとうございます。これからも応援してます! (2018年11月27日 16時) (レス) id: 5e4beefb64 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木ノ嶋 | 作成日時:2018年8月17日 23時