33.片道ロマンス ページ33
「沖田さんっ」
見廻りに行こうと屯所を出てすぐ、Aが横からひょこりと顔を見せる。
今日の見廻りは1番隊の役目。くあ、と欠伸をひとつ漏らす。
「ん?」
「今日、お昼、ご一緒しませんか。私の奢りですよ」
「なんでィ急に。何を企んでやがる」
「企んでようがなかろうが、どっちでも構わないじゃないですか。…行きます?」
「行ってやらねェこともねェ」
「沖田さんならそう言うと思ってました」
そう言ってにんまりと笑顔を見せるAを見ていると、いっそ全てばれているのではないかと思う。
俺が死ぬほどAのことが好きで、それに気づいていて、弄ばれていると。
そう考えてしまうのも無理はないくらい、Aは俺の事を理解している。
……されたくないところまで、理解されてしまっている。
「……生意気」
「何でですか!」
こうして軽口を叩ける時間が幸せで、愛おしくて、それでいて少しもどかしい。
この先に進みたいと、何度思ったことだろう。
────この関係を壊したくないと、何度、思い直したことだろう。
「それじゃあまたお昼、声かけますね。見廻り、さぼらないでくださいよ」
1番隊を何分割かして、江戸の街を巡回する。
当然のように、俺とAは別のチームである。
離れていく背中を、気づけば呼び止めていた。
「……A」
「はい?」
振り返った瞳が丸っこく、くりくりしていて、思わず抱きしめたくなった。
「……俺じゃ、草間みてェな豪華なこたァ出来ねェよ」
「もう、何言ってるんですか急に」
らしくもなくAに弱音を見せる俺をどう思ったのか、Aはころりと笑うと開いていた距離を縮めてくる。
そうして俺の手をぎゅ、と握ると、少し高い位置にある俺の顔を覗き込んだ。
「沖田さんだから、いいんですよ」
その上目遣いに、心臓が痛いくらいに高鳴る。
「豪華とか、関係ありませんから」
逸らすことが出来ない視線に捕らわれて、どうしようもなく胸が苦しい。
いっそ抱きしめて、俺のこの鼓動を聴かせてやりたい。
「……だから、お昼を楽しみに、まずは見廻り行きましょう」
それから何事もなかったかのようにぱっと離れてしまうから、やはり俺はこう思わずを得ないのだ。
(………弄ばれてんじゃね、俺。)
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乙愛 - 草間さんのセリフにグッときたがワイは負けん…はっ!総悟!違う私は一筋じゃぁ (2018年12月19日 18時) (レス) id: 89a184ea87 (このIDを非表示/違反報告)
木ノ嶋(プロフ) - 乙愛さん» コメントありがとうございます。良い意味でキュッとして頂けたら幸いです。物語が徐々に動き始めてきましたので、どうか今後も見守ってくれたら嬉しいです。 (2018年12月10日 22時) (レス) id: 24579aa2d7 (このIDを非表示/違反報告)
乙愛 - なんか、心臓キュッってなりました。( ・∇・)きゅーん (2018年12月7日 22時) (レス) id: 89a184ea87 (このIDを非表示/違反報告)
木ノ嶋(プロフ) - アルハさん» 本当に嬉しいお言葉、ありがとうございます。受験生なんですね…この作品で、少しでもアルハ様の応援が出来たらいいなと思っております。ありがとうございました。 (2018年11月28日 7時) (レス) id: 24579aa2d7 (このIDを非表示/違反報告)
アルハ(プロフ) - 受験生の身でありながらついぶっ通しで読んでしまいました・・・笑上から下までタイプですありがとうございます。これからも応援してます! (2018年11月27日 16時) (レス) id: 5e4beefb64 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木ノ嶋 | 作成日時:2018年8月17日 23時