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59.どうしようもない程逃げられない ページ9

「だから初対面のとき、まだ直接お名前聞いてなかったのに、うっかり呼んじゃって」

「…ああ、」

「後々、しまった!って気づいたんですけど」



すとん、と胸に落ちてくる。



(……そっか)

(そうなのか)



ぽやん、と胸の内が暖かく感じるのは何故だろう。

何処か安堵してしまっている理由なんて、自分では導き出せない。



「……あのう、突然こんなことを訊くのもびっくりしちゃうと思うんですけど」

「何ですか?」

「Aさんて、沖田総悟さんのこと好きなんですか?」

「は、」



動揺して、湯呑みを持つ手が止まる。ハッと気づいて平常心を保つ。



「どうしたんですか、急に」

「だってAさん、沖田総悟さんがAさんの話をしてるって聞いたとき、すごく嬉しそうでしたから」

「…そりゃ、自分の話を他でしていたって聞いたら、黄川さんだって嬉しくないですか?」

「じゃあAさんは、沖田総悟さんのことは好きじゃないんですか?」

「好きじゃない…ことはないですよ、普通に好きです」

「普通に?」

「身内ですからね、家族みたいなものですから」

「その好きは家族愛だと、言い聞かせてるんですか?」



どき、と心臓がわざわざ緊張していることを伝えてくる。

隣からの射抜くような視線を直視できない。



「…なんで、そんな言い方、」

「違うんですか?」

「……違いますよ」



まん丸の目が、私の横顔をじいっと見つめている。

見抜いている。

射抜いている。



「沖田総悟さん、素敵な人ですよね」



ぽつりと呟かれた言葉に、黄川さんの顔を見た。見てしまった。

その視線はいつしか私なんかには注がれておらず、じっと真っ直ぐに何かを見ている。

その先に何があるのか、見るのも考えるのも怖くて、気づかないふりをしようとした。

────けれど、できなかった。

ゆっくりと、そちらを見てしまった。



(────…あ、)



ふわりと欠伸をひとつして、壁に寄りかかる沖田さんの姿。

ここからは少し遠くて、沖田さんの身体の向きからこちらを見ることは出来ない。



「話せば話すほど、素敵な人です」



そう言う黄川さんの横顔は、何を思っているのか。

先方の沖田さんが、くるりと身体の向きを変えてこちらを向く。

それが見えた瞬間、私は弾かれたように立ち上がっていた。



「……急用を、思い出して」

「お団子、残ってますよ」

「…沖田さんにでも、あげてください」



そして逃げるように、その場を後にした。

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乙愛 - 吉沢亮さん、良すぎですよね……。ほんと、沖田さん…。現在1番好きな役者さんです。 (2019年2月11日 10時) (レス) id: 6dafc5383a (このIDを非表示/違反報告)
乙愛 - お疲れ様でした!最後の写真みてみたいです…/// (2019年2月11日 10時) (レス) id: 6dafc5383a (このIDを非表示/違反報告)
ののこ(プロフ) - 毎回更新を楽しみにしていました。終わってしまって寂しさもありますが、素敵な小説に出会えて良かったです。ありがとうございました! (2019年2月10日 1時) (レス) id: c2027c837f (このIDを非表示/違反報告)
sachoco(プロフ) - とても素敵な作品に出会えて幸せでした。ハッピーエンドでとても嬉しかったですし、完結した寂しさの反動も大きく、それ程この小説にハマっていたのだと思います。本当にお疲れ様でした!(実写版沖田さん…本当に完璧と言わざるを得ない程素敵だと私も思いました!) (2019年2月8日 19時) (レス) id: 6ffe0b9ea7 (このIDを非表示/違反報告)
春先未(プロフ) - お疲れ様でした…本当に面白く更新を楽しみにしていた作品だったので終わってしまい寂しさ半分、素敵な作品と出会えたという幸せな気持ち半分です。とても素敵な作品をありがとうございましたm(_ _)m (2019年2月8日 18時) (レス) id: 948ea5509c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:木ノ嶋 | 作成日時:2018年12月14日 8時

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