64.これが好きということ ページ14
指定された店に向かうこと、約15分。
時刻は夕方を示し、すっかり寒くなった空は暗くなるのが早い。
夕日を通り越し、頭の真上はもう暗い。
目的地へと辿り着く。土方さんの贔屓の店だと言っていたけれど、私は見知らぬ場所だった。
がらがら、と引き戸を開け、店内を見回す。
「嬢ちゃん、こっち」
「あ…、どうも」
店主と思われる、厳つい顔のオヤジさんに手招きされ、ぺこりと会釈しながら店内に入る。
大して広くない店内を十数歩ほど歩いていると、連れてこられたそこには。
テーブルに突っ伏して動かない、他でもない沖田さんの姿があった。
「……」
「後は頼んだ」
あまり口数が多くないオヤジさんは、それだけ言うとすぐに元の場所へと戻ってしまう。
少ないとは言え、他にもお客さんがいる。こんなところで沖田さんにぐうすかと寝ていられては、迷惑なんだろう。
「………」
そもそもお酒を飲まないでくださいよ、とか。
言いたいことはあったけれど、静かに寝息をたてる沖田さんを目の前にして、そんなことも言えるはずもなく。
小さく、何度目かのため息を吐き出して、沖田さんの肩を揺する。
「沖田さん、起きてください」
「……んー」
「沖田さーん」
「んん……」
閉じた瞼は強情で、返事にもならない返事しか絞り出されない。
ぺしぺしと肩を叩いても、反応がない。
「沖田さぁん」
駄目だこりゃ、起きそうにない。
仕方ない、と無理やり沖田さんの腕を引っ張る。
「…………んでィ」
「せめて屯所までは歩いてくださいよ、その後はどれだけ寝てくれてもいいので」
「………A?」
「そうですよ」
「…………、」
のそり、と腰を上げる。
ふらふらと身体が揺れる沖田さんの手首を掴んで、オヤジさんに一言挨拶してから店を後にした。
ゆっくり後ろを着いてくる沖田さんは重い。
引っ張る手に体重がかかっていて、自然と私が歩くのもゆっくりになってしまう。
「……Aー」
「なんですか」
「A」
「なんですか」
「………………A、」
「もう、なんですか」
ぽやん、ぽやんと。
沖田さんのぽやぽやが移ったかのように、私の頬まで熱くなってくる。
例え酔っていたとしても、寝ぼけていたとしても。
名前を呼んでくれる、隣に並んでくれる。
たったそれだけが、こんなにも嬉しい。
"好き"にはたくさんの感情が詰まっている。
こそばゆいような、けれど離しがたい感情は、嫌いじゃない。
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乙愛 - 吉沢亮さん、良すぎですよね……。ほんと、沖田さん…。現在1番好きな役者さんです。 (2019年2月11日 10時) (レス) id: 6dafc5383a (このIDを非表示/違反報告)
乙愛 - お疲れ様でした!最後の写真みてみたいです…/// (2019年2月11日 10時) (レス) id: 6dafc5383a (このIDを非表示/違反報告)
ののこ(プロフ) - 毎回更新を楽しみにしていました。終わってしまって寂しさもありますが、素敵な小説に出会えて良かったです。ありがとうございました! (2019年2月10日 1時) (レス) id: c2027c837f (このIDを非表示/違反報告)
sachoco(プロフ) - とても素敵な作品に出会えて幸せでした。ハッピーエンドでとても嬉しかったですし、完結した寂しさの反動も大きく、それ程この小説にハマっていたのだと思います。本当にお疲れ様でした!(実写版沖田さん…本当に完璧と言わざるを得ない程素敵だと私も思いました!) (2019年2月8日 19時) (レス) id: 6ffe0b9ea7 (このIDを非表示/違反報告)
春先未(プロフ) - お疲れ様でした…本当に面白く更新を楽しみにしていた作品だったので終わってしまい寂しさ半分、素敵な作品と出会えたという幸せな気持ち半分です。とても素敵な作品をありがとうございましたm(_ _)m (2019年2月8日 18時) (レス) id: 948ea5509c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木ノ嶋 | 作成日時:2018年12月14日 8時