兄と私と、たぶん弟 1 ページ11
翌日。
土曜日にも関わらず、いつもの起床時刻よりも30分早く目が覚めた私は、何をするでもなく、ベッドの上でぼんやりとしていた。
枕元に無造作に置かれた文庫本は、昨日寝る前まで読んでいたもの。
けれども、その内容は全くと言っていいほど、頭に残っていない。
いつもなら、何の抵抗もなく入っていける架空の世界。
しかし、昨日だけは、分厚く弾力のある壁に反発され、どうも入っていけなかった。
何度押し返しても、何度体当たりしても、私は現実の世界で一人、立ちすくむしかなかった。
表紙を開いてみるが、どうにも集中できない。
文字の山の斜面を、目が滑っていく。
音を頭の中で唱えているだけで、意味がまるで入ってこない。
その代わり、頭の中では昨日の景色が何度も何度も繰り返し再生されている。
頬にはまだ、龍斗くん――なんて呼んでも良いんだろうか――の手の感触が残っている。
火傷しそうだった。
顔に跡が残るんじゃないかっていうくらい熱かった。
けれども、何度iPhoneの画面の反射で確認しても、いつもと変わらない、冴えない顔が写っているだけ。
傷一つない。
まだ、こんなにもじりじりしているというのに。
ベッドの上で正座をしたまま、ただただじっとしていると、数回のノックの後に優斗くんが部屋に入ってきた。
真っ白な顔。
パジャマ姿のままの優斗くんは、小さな唇を弱々しく震わせながら、今いい？と小声で確認した後に、私の隣に座ってきた。
大粒の雨が窓を叩きつける。真冬にしては珍しい大雨。
太陽は雲に隠され、光は一切入ってこない。
ピンク色のカーテンに囲まれた私の部屋はいつも以上に薄暗く、まだ朝だというのにオレンジ色の照明をつけなければ優斗くんの瞳の色を確認することも出来なかった。
「……A的に、今回の件どう思ってるの？」
「どうって、言われても……」
話題は当たり前に、昨日うちにやってきた龍斗くんのことだった。
昨日、あの後、優斗くんは私と龍斗くんを引き離し、彼を叱りつけた。
「女の子を見たことがないなら仕方ないかもしれないけど、そういう風にむやみやたら異性に触るのはやめろ」
久し振りに聞いた、優斗くんのぴしゃりとした言い方。
それは意外な行動だった。
明るく、社交的で優しく、それこそ、突然の居候の出現、しかもクローンの男の子、という状況も許せてしまうような優斗くんが、まさかそんなことを言いだすとは思わなかった。
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れお(プロフ) - 陽依さん» コメント有難うございます。そんな風に言っていただけて、本当に嬉しいです。ゆっくりですが更新していきますので宜しくお願い致します。 (2021年8月4日 0時) (
レス) id: 8293f3a179 (このIDを非表示/違反報告)
陽依(プロフ) - ほんとにこのお話大好きです！なんでとかはうまく言えないんですけど…これからも楽しみにしています！ (2021年8月2日 22時) (レス) id: 5f72745e3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：れお | 作者ホームページ：https://peing.net/ja/reosndy
作成日時：2021年6月26日 21時
