第十二話 ページ12
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「本間幸せ者やなあ臣君は! こんな可愛くて家庭的で優しい彼女がいるとか、そらもうベタ惚れなんやろなあ」
「いや、そんな事ないよ」
ベタ惚れなんて1番あり得ない話だ。
そもそも本当に惚れてるのかすら私には信じがたい。
「なんで⁇ 臣君と上手いこと言ってへんの⁇」
その質問につい黙り込んでしまった。
すると侑君は焦ったように撤回した。
「あ、ごめん今の忘れて‼ デリカシー無い事ゆうてもうた‼」
「ううん大丈夫! ごめん気をつかわせちゃって! 私が贅沢過ぎるのかも。好きって言って欲しいとか、普通にデート行きたいとか、もっと優しくしてほしいとか」
自分で言って悲しくなった。
でも実際どれも臣に求めるだけ無駄なんだ。
そんな事分かってるよ。何年付き合ってると思ってるんだ。
「ええ…Aちゃんそれ贅沢言わんよ、めっちゃ質素やわ、てかデートも行かんの…」
哀れむ様に見てくる侑君に苦笑いが溢れる。
「俺やったら好きな子にはいつだって好きやー‼ って言いたいし、休みの日にはいつもバレー優先でごめんなあってデートに誘いたいし、甘やかしたいなあ」
臣と真逆のタイプだなあ。
でもいいな、それ。
ちょっと羨ましいかも。
「俺は好きやでAちゃんの事! 話してておもろいしな〜〜」
優しくて、親切で、一緒にいて楽しい。
『じゃあさ。もしAの前に、すっげータイプで優しくて言う事なしの男が現れて言い寄られたらどうする⁇』
言い寄られてはいないけど、今すごく逃げ込んでしまいそうになった。
もし侑君と付き合ったら、私が抱えている悩みはきっと消えて無くなるんだろう。
想像してみたら、楽しい背景しか思い浮かばない。
「ありがとう侑君。手伝わせちゃってごめんね」
「ええよええよ俺も楽しかったし!」
結局侑君はアパートの前まで荷物を持ってくれた。
私の悩みにも嫌な顔一つしないで聞いてくれる彼は、本当に優しい人なんだなと実感させられる。
お陰で少し気持ちが楽になった。
別れ際に連絡先を聞かれて交換した。
また何かあったら話くらいいくらでも聞くからと言われて。
「ほな! 気いつけて帰りや〜‼」
「それは侑君の方でしょ、ありがとうバイバイ」
逃げ込んでしまいそうになる。
でもそうならないのは、少なくとも私は臣の事がまだ好きなんだろうな。
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作者名：林檎 | 作成日時：2020年6月19日 16時
