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桜の蕾がぽつぽつ開き始めた頃だった。


夕方、いつも通り部活を終え、家に帰ってきた俺は玄関がいつもよりすっきりしていることに気づいた。…靴が足りない。

雨は降っていないのに、傘も一本足りなかった。それが姉のものだと気づくのに時間はかからなかった。



「おかえり……太志?そんなところでなにしてるの?」

「…姉さんは?」



"ただいま"よりも先にその言葉が口から出た。久しぶりにこの言葉を口にした。母は驚いた様子で言った。



「Aならもう行っちゃったけど…。来月から東京の大学に通うから。あの子、太志にはもう言ったって言ってたのに…」



その言葉に頭は真っ白になった。俺は何も知らなかった。だって、姉とは随分と話していないから。

階段を駆け上って、姉の部屋のドアを開けた。部屋には、隅に二つほどダンボールが置かれているだけだった。すっからかんで、姉がここにいたと証明するものは何もなかった。温度も何も感じられない部屋だ。


同じ家を出て、同じ家に帰ってきて。確かに同じ空間にいるはずなのに、距離はずっと遠い国と国を跨いでいるような。

同じ空間にもいなくなってしまった姉は、遠い国を跨ぐどころか、すっかり消えてしまったように感じられて怖かった。


姉が家を出た。同じ家に帰ってくることはきっと、当分ない。ずっと顔も合わさず、話さずだったくせに。本当に何も言わずに、何も残さずに、姉がいなくなってしまったのだと思うと苦しくて、泣きたくて堪らなかった。すっかり姉の手の温度も思い出せなくなっていた。



姉の部屋を出て、隣にある自分の部屋のドアノブに手をかける前に気がついた。

ドアノブには何か細い紐状のものがかかっている。手に取ってみたら、ミサンガだった。ドアには一枚の小さな付箋が貼ってあり、それには姉の丁寧な字で、"部活頑張って"と書かれてあった。

胸がぎゅっとなって、苦しいのか嬉しいのか、複雑な感情のまま、自分の部屋の前でミサンガを握りしめて泣いた。









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午睡(プロフ) - RIOさん» 完結までお付き合いいただき、ありがとうございました!(;_;)是非、姉弟をよろしくお願いしますッ…!本当にありがとうございました!! (2021年10月27日 18時) (レス) id: 95250c6930 (このIDを非表示/違反報告)
RIO - 最後まで読ませてもらいました!小野寺姉弟、推しちゃいそう!笑シスコンとブラコンかぁ~小野寺くんに愛されたい((  長い間、お疲れ様でした! (2021年10月27日 7時) (レス) @page50 id: 759836d8d0 (このIDを非表示/違反報告)
午睡(プロフ) - RIOさん» ありがとうございます…!!在り来りですが、オチといえばこれかなと…(笑)安定に推しが尊いですッ!! (2021年10月12日 1時) (レス) id: 95250c6930 (このIDを非表示/違反報告)
RIO - 新しいの読ませてもらいました!オチ完璧ですね(笑)そして相変わらず推しが尊い╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯ (2021年10月3日 23時) (レス) @page32 id: 759836d8d0 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - RIOさん» 寺くんいいですよね…(ニッコリ)ありがとうございます…!! (2021年9月26日 2時) (レス) @page28 id: 95250c6930 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:午睡 | 作成日時:2021年8月17日 2時

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