ろくつまみ ページ6
「最悪……」
まとわりつく服と髪。ハンドタオルで拭いても気休め程度にしかならない。
傘は持ってきていない。折りたたみ傘は教室。運が悪いにも程がある。
表に止まっていた高級車が恨めしい。誰だあんな高い車でこんな田舎を乗り回したのは。
おまけに日の暮れかけたところに雨雲だ。一言で言えばとても暗い。とても怖い。
パシャ、パシャ、パシャ
水の音がする。もしかして先に誰かいたのか。
「……君、一人？」
かさついた低音。男の人、しかもかなり年上だ。慌ててカバンからスマートフォンを取り出し、ライトをつける。辺りがぼんやりと見えるようになった。
最初からこうすれば良かったな。なんて考えつつ男の人を見る。一瞬目を疑った。嘘でしょ？
「めっちゃタイプ……」
「え？ なんて？」
聞き返してくるおじさんに「なんでもないです」と慌てて誤魔化す。思わず口に出てしまった。それくらい《似ている》のだ。
───現在攻略中の、乙女ゲーのおじ様に。
「あのさ、もしかして傘ないの？」
俯いて悶えを隠していた私の顔を覗き込んでくる。ヤバいヤバい、供給過多がヤバい。顔が良いとしか言いようが無い。
「は、はい。雨宿りしてて……」
しどろもどろになりながら答える。おじ様の顔が綻んだ。顔が良い顔が良い顔が良い！
「良かったら、車乗ってく？ お家まで送るよ」
………え？
「表に車止まってたでしょ？ あれ俺のだからさ」
ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って！これなんて乙女ゲー？
「あ、でも初めて会った人の車に乗るのは怖いか」
女の子だもんね、と微笑みかけてくるおじ様。好き好きヤバいヤバい語彙力が消えた。
「どうする？ 乗るか、乗らないか。乗らないなら雨が止むのを一緒に待って欲しいな」
それ私が選ぶんですか、私が選んで良いんですか！？
その時、乙女ゲーの画面で見慣れた幻覚が見えた気がした。
車に乗る◁
一緒に待つ◁
コマンド？
━━━━━━━━━━━━━━━
夕立/たゆたう/楽園
雨宿りの女子高生とイケおじの話。皆さんは知らない人にはついていかないでくださいね。
たゆたうって「心が揺れる」って意味があるらしいです。勉強になりました。
もちろん続きません。
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スピカ(プロフ) - あの作品…とても良いとは思っていたけどこんな風に小説化するとは…語彙力高い！ (2019年11月12日 10時) (
レス) id: 107a705257 (このIDを非表示/違反報告)
冴(プロフ) - なんか……素敵！どこがいいとは言えないです語彙力よ来い。面白いので頑張って下さい！ (2019年10月27日 18時) (レス) id: cd880b444a (このIDを非表示/違反報告)
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