検索窓
今日:8 hit、昨日:30 hit、合計:510,541 hit

聞いてしまった ページ41

教授の部屋の前まで来て、扉をノックしようとしたら、少し扉が開いているのに気がついた。
中から話し声が微かに聞こえてくる。




藤「整理していた論文の中に…これだけが1つ残ってました」


佐「これは……」




どうやら、中に居るのは藤原師長と佐伯教授。
論文が残ってた…?
整理してたってことは昔のやつかな。




佐「懐かしいな…一郎先生には生意気だった私の鼻っ柱を随分へし折られた」




昔を懐かしむような声。
そして出てきた、一郎という名。

一郎…って、もしかして渡海…一郎…?

気になって開いている少しの隙間から中を覗く。
佐伯教授が目玉クリップで留めてある紙の束の表紙を、そっと優しく撫でているのが見えた。

しかし次の瞬間、それを恐らく足元にあるのであろうゴミ箱か何かに放りなげた。

静かな部屋に捨てられた紙束の音が響く。




佐「捨てた過去だよ……」


 「っ……!?」





体をかけ巡った謎の寒気。
佐伯教授のあんな顔…初めて見た。
いつもの温厚そうな表情とは全く別のもの。

心臓が早鐘を打つ。
征司郎があの日から…東城大に行くと言い出したあの日から、私に言い続けている言葉が頭の中で再生される。




『佐伯清剛は俺の親父を裏切った』

『お前が信じるべきなのは佐伯じゃない』

『俺を信じろ』




藤「それでは、失礼致します」




藤原師長の声が耳に飛び込んできて、慌てて私は扉から身体を離す。

バクバクと脈打つ心臓を落ち着けるように呼吸して、まるで今此処へやって来たかのように扉をノックした。

こうでもしないと、出て来る藤原師長と鉢合わせた時、盗み聞きを疑われるかもしれないと考えて咄嗟に取った行動だったんだけど…。

しまった。
まだ頭が混乱したままだし、上がった心拍が収まらない。
手が、震える。




 「失礼致します」




恐る恐る中に入ると、ソファの近くに立っていた藤原師長に少しだけ驚いた顔をされた。
でも、すぐにそれは笑顔になる。




藤「北見先生じゃない。どうかしたのかしら?」


 「大した要件では無いのですが…研修医の世良先生のことで佐伯教授に少しお話が」


佐「ほう、何か問題でもあったかね?」




手招きされるまま、教授の方へと近づく。
先程の冷たさが嘘だったかのような笑顔。
それが逆に、少し怖い。

少しの恐怖感と先程の教授の表情を頭から消そうと、ここに来た本当の理由、つまりは世良くんの指導医になることへと必死に意識を向けた。

許可→←指導医



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (241 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
771人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

霜月(プロフ) - 重岡ゆう毅さん» ご指摘頂けて本当に助かりました。ありがとうございます!そう言って頂けると本当に嬉しいです♪更新頑張りますね! (2018年6月30日 23時) (レス) id: 830a43c59f (このIDを非表示/違反報告)
重岡ゆう毅(プロフ) - 霜月さん» いえいえ、わざわざありがとうございます!このお話とても好きなので、これからも頑張ってください! (2018年6月30日 14時) (レス) id: 18e1e6c35b (このIDを非表示/違反報告)
霜月(プロフ) - 重岡ゆう毅さん» 誤字のご指摘ありがとうございます!修正致しました。 (2018年6月30日 13時) (レス) id: 830a43c59f (このIDを非表示/違反報告)
重岡ゆう毅(プロフ) - 「掛かっきた電話」ではなく、「掛かってきた電話」ではないでしょうか(・・?) (2018年6月30日 8時) (レス) id: 18e1e6c35b (このIDを非表示/違反報告)
霜月(プロフ) - たぷたぷさん» コメントありがとうございます。佐伯教授、素敵ですよね♪機会が作れたら書きますね!これからも宜しくお願い致します。 (2018年6月28日 23時) (レス) id: 830a43c59f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:霜月 | 作成日時:2018年6月9日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。