甘い香りに包まれて。【短編集】

＊となりの坂田。：義理と本命 ページ6

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　校内が甘い香りで満たされる今日だけは、先生も見逃してくれる。

　女子も男子も浮足立ってるバレンタイン。


　私は友達に配って、終わり。


　「ね、A。隣のクラスの子、坂田くんに告白するんだって。」

　「へぇ…。」

　「幼馴染なのに反応薄い。」

　「興味ないもん。」


　嘘。

　めちゃくちゃ気になる。坂田が色んな人に、チョコちょーだい、なんて言うから。言わないで、なんて言えたらいいのに。




　一緒に帰ろ、なんて連絡が坂田から来ていて、放課後教室で待ってたらチョコがたくさん入った紙袋を持った坂田。

　「相変わらず大量だね。」

　「やろー？甘いもん好きやからバレンタイン最高！」

　「…本命、混ざってるんじゃない？」


　…可愛くない。

　そんなこと言うつもりもなかったのに。


　「本命は受け取っとらんよ。」

　「…そう。」


　じゃあ、私が渡すときに本命だよって言ったら受け取ってくれないんだ。

　…本命、なんて言えないけど。そんな勇気どこにもない。


　「Aのちょーだい？」

　「はい、どうぞ。」


　カバンから出した、赤いリボンでラッピングしたオランジェット。

　「ありがと！めっちゃ美味そう！」

　紙袋に入れず、手に持たれたままのオランジェット。


　「…で、これって本命？」

　「…本命は受け取らないんでしょ？」

　「A以外からは受け取らんよ。いつになったらくれるん？」





　ずっと昔から本命しか渡してないよ。

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