７カラット ページ23
…
「ここが稽古場？」
ひかるは、３階建ての寂れたビルを見上げて言った。
窓には白いシールで ＜社交ダンス教室＞と、フリー
ダイヤルの電話番号が貼られている。
「借り物だけどな。俺らは２階」
埃くさい階段をあがって、電気の切れかけた廊下を
曲がり、ふたつめのドアに手をかけた。
ひかるは両手で台本を握り締めて、ちいさい喉仏を
こくり、と上下に鳴らす。
「まだ誰も来てねーから。ほら、リラックスして」
緊張でかたくなったほっぺを両側からもちゃもちゃ
揉んで柔らかくしてやる。
嫌がってもしつこく続けていると、観念したらしい
ひかるは大福みたいにふくよかにでへへ、と笑った。
「もうらいひょーふっ」
「……んじゃ、狭いとこですが、どーぞ」
演技じみた動きで稽古場に招き入れた。
片面は窓、もう片面は鏡、木の床に積み上げられた
パイプ椅子。壁のボードには俺達をはじめ、色んな
小劇団の公演ポスターがところ狭しと貼られている。
「ちっちゃい体育館って感じだね」
言われてみればそうかも、と、妙に新鮮な気持ちで
がらんとした稽古場を見まわした。
誰もいなくて当たり前。まだ約束の１時間前なのだ。
早めに行ってリハーサルをしようと言い出したのは、
ひかるだった。
「……薮ちゃん？」
部屋の中央で目を輝かせていたひかるに、過去公演の
ポスターでも見てみるかって口を開いたその時だった。
壁のポスターの中、苺を咥えている涼しげな眼差しが
そっくりそのままドアの前に立っている。
「………涼介……」
「っ、薮ちゃんっ、！」
涼介が笑顔で駆け寄ってきて、俺の腕に触れて、思考
回路がショートした。
黒いコートにこっぽり着られた涼介は、数か月前より
少し痩せた気がする。
「っ、ここで何やってんの？忘れもんでもした？」
身体ごと目を逸らす。ひかるがすぐ後ろに立っていた。
こぼれ落ちそうな瞳で、切実に何か訴えてくるものの、
ひかるがなんて言いたいのかも、なんて言えばいい
のかもわからず、真っ白な手紙をやり取りするような
時間だけが流れていく。
「薮ちゃん、誰？」
ひかるをどう紹介すれば、涼介を後悔させることが
できるだろうって、そんな卑しいことを考えていた。
ひかるは俺が見つけたダイヤの原石。憑依型の天才。
見ているだけで胸がときめく、ショートケーキの苺。
それに恋人。俺の特別。
「……ははっ、…」
そんなの涼介に伝えたところでなんのダメージも
ないのに必死かよ、と、心底呆れて、自分自身を
鼻で笑った。
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ２人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ２人の人生に全力で拍手を送ります！素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね＊残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…！！ (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます＊お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年7月27日 22時
