カラット＜yb×hk＞

５カラット ページ15

…



赤ちょうちんの大衆居酒屋、同年代の男連中と４人、
ベビーベッドみたいな柵で囲まれただけの個室とも
呼べない座敷で、冷えたビールジョッキをぶつけた。

つまみは枝豆とだし巻き卵、それから熱い演技論と
言いたいところだが、こいつらは揃いも揃って話題
泥棒で、俺が何度演技論を持ちかけようにも、すぐ
色恋の話にすり替えてしまう。



「薮、男前なのになぁ〜やっぱ金ねぇからか？」
「……よけーなお世話」
「あ、もしかして流行りのBL？」
「っ、ぶほ…っ、！」



吹き出したビールをおしぼりで拭う。
俺に長いこと彼女がいないというネタはこいつらの
好物のひとつだ。
味のなくなったチューインガムぐらい噛んでも何も
出てこないってのに、よくも飽きずにやるなと思う。



「まず、どういう子がタイプなわけ？」
「……顔が可愛い子」



そりゃそうだろな、と賛同の声が、真綿をかぶせた
ように遠くに聞こえた。

他は他は？、と群がる声のせいで酔いが回ったのか
頭の芯がぼやっ、と揺らぐ。





「……頑張り屋さんな子」





食べもしない枝豆を皿に剥き、ぺしゃんこになった
サヤは端っこに積み上げた。





「……美味そうに食べる子」





取り分け用の皿が豆でいっぱいになる。皿の絵柄は
妙に色っぽい黒猫だ。





「……ちょっと気まぐれな子」





手持ち無沙汰になって、手元のビールを見た。半分
残った黄金色の中を細かい泡がのぼっては、消える。





「朝、弱くて起きれねーくせに、
アラームは音が嫌い〜とか言って……バカなやつ」





バカで、気まぐれで、頑張り屋で、可愛いやつ＿＿。
今頃、ひとりで練習してんのかな。それとも、俺の
ベッドで寝てたりして。お腹出してたら風邪ひくぞ。

帰ったら、一緒におさらいしような……。





「おい、薮っ」
「……あ？」





ウトウトして机につっぷしていたらしい。
うつけた頭をあげると、仲間が３人カラダを寄せて
不気味なぐらいニマニマ笑っていた。



「……なんだよその顔…」
「お前こそ水くせーじゃん」



３人は俺にぐっと顔を近づけて、劇団一の噂好きで
お調子者な同期が、わざと内緒話みたいに言うのだ。



「お前の眠り姫、今度紹介しろよ」
「っ、な…っ」



いねぇよそんなん、と声を張り上げるも、誰ひとり
聞く耳を持ってくれなかった。
そのあと、話題は二転三転し、俺たちはいつも通り
終電間際で解散した。

満員電車に揺られ、駅に降り立つと、鼻の奥がツン
と痛くて、パーカー１枚じゃ肌寒い、と肩を落とす。





もうこの気持ちを、暑さのせいにはできない。





…

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