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…
後悔するぞ、と捨て台詞を吐いて、男達は帰っていった。
アスファルトの廊下をコツコツ、遠ざかっていく靴音に
耳をそばだてる。
そのままさっさと角を曲がって、見えなくなってくれと
願った時、ひかるが俺の肩を押しのけ廊下に飛び出した。
「っ、ひかる行くな…っ」
今さら戻りたいとか、絶対許さない。
ほとんど無意識にひかるのひやっこい手を握ったものの
振りほどかれることはなかった。
ひかるは廊下に根を張るように堂々と立ち、空いた腕で
ゴシゴシ涙を拭い、そのままその手をへその下に当てて
腹から息を吸う。
俺が最初に教えた、腹式呼吸だ__。
「っ、おれが舞台に立てたらっ!!
見に来てって伝えてっ…!!」
竹を割ったような声が、その余韻が、この町の朝やこの
廊下の静けさを際立せている。
自由奔放なひかるのカラダやひかるの喉に、ほんとうは
愛情深くて優しいひかるが乗り移り勝手に叫んだのだと、
俺にはそう見えた。
今、ひかると同じ舞台に立てていることが、嬉しかった。
「やぶ、助けてくれてありがと」
「……いや…」
儚げに笑ったひかるは、どこか風船みたいで。ふわふわ
飛んでいってしまいそうで、繋いだ手を離せないでいた。
ひかるが握り返してくれた理由は、まだわからないけど。
「今日はどこに行くの?」
「………ん、、海行こう」
電車を乗り継ぎ、波止場のある海へ向かった。
ひかるは電車に乗るのも久しぶりだと言って、窓の外の
景色を余すことなく瞳に映し、シャッターを切るように
瞬きをした。
降り立った波止場は太陽をたっぷりと吸い込んで、海も
アスファルトもどこかふっくらしている。
「おれ、海ってはじめて来た」
「……マジかよ」
「ん〜っ、いい匂いがするね」
「……そうか?」
ひかるはうん、と伸びをして海べりに座った。すぐ隣に
腰を下ろせば、アスファルトはふっくら、とあたたかい。
潮の匂い、テトラポッドで波が砕けて、港を離れていく
客船が汽笛を3回鳴らした。
お見送りありがとう。それでは、さようなら、って__。
「戻って来てほしいなんてさ。……今さらだよね」
ひかるは遠ざかっていく巨大な船を見ていた。
まるで大切な誰かが乗っているかのような熱い眼差しで。
「じいちゃんは、フラフラしてたおれを拾って、
親切にしてくれて……ほんとに恩人なんだ。
もういらないって言われたときは悲しかったし、
なんで?って思ったし、戻りたいって思ってた。
じいちゃんのこと見捨てるのはツラいけど……
おれ、もうあそこには戻らない」
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ2人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ2人の人生に全力で拍手を送ります!素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね*残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…!! (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます*お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこる | 作成日時:2019年7月27日 22時