４カラット ページ12
…
約束の朝。
たまには迎えに行ってやるか、と玄関から薄暗い
廊下に出て、ちょうど鍵をかけたそのときだった。
黒いスーツ姿の男が２人、すぐ後ろを通り過ぎて
ひかるの部屋の呼び鈴を鳴らすのを見た。
悪い予感を具現化したような見た目に、威圧的な
態度、この場に相応しくないピカピカの革靴＿＿。
煙草に火をつけ、気配を消して、様子をうかがう。
「おれのこと捨てた癖にっ、！！」
ドアの中からひかるの金切り声が響いた。
話の筋は見えないものの、どうやら前の雇い主の
関係者らしいということは察しがつく。
じいさんとこの社員か、もしくはボディーガード。
煙草を咥え、鼻で細く息をして、左の耳に意識を
集中した。
「新しい仕事見つけたし…そっちで忙しいから…」
「仕事ってどんな？」
「……演技の仕事。……劇団に入るの」
一瞬の沈黙のあと、男達は顔を見合わせて笑った。
ささくれ立ったプライドに、塩水みたいに沁みて
ヒリヒリ痛む笑い声＿＿。
俺も何度も浴びてきた、人を小馬鹿にする笑い声。
「お前みたいな世間知らずの"脳たりん"に
役者なんか無理だよ」
伸びっぱなしの爪で、血がにじむほど頭を掻いた。
煙草を捨て、火が消えても粉々になるまで踏んだ。
「……そう、かもしれないけど…っ」
あほ。認めるな。めそめそ泣いてんな。言い返せ。
毎日何時間も練習して、元の台本が見えなくなる
ぐらい書き込みして、まだ舞台には立てないけど、
お前はもう立派な役者だろ？
サイン貰うなら今のうちだって、胸を張ってりゃ
いいんだ。
お前を笑う奴は、俺が許さない。
「大人しく戻って来いって、」
「やだ…っ」
ひとりの男がひかるの腕を掴んで捻りあげたとき、
俺に怖いものはなかった。
ひかると男のあいだに入って男の腕を引き剥がし
この後、ボコボコにしても構わないから、耳の穴
かっぽじって聞けと男を睨む。
「一生懸命な奴を笑うんじゃねーよ、！！」
肩のすぐ後ろで、「やぶ？」と、聞き慣れた声が
ふるえて、指でシャツを掴まれる感触がつづいた。
たったそれだけのことで、何の根拠もない勇気が
湧いてくる。
「ひかるにはな、生まれ持った "華"があんだよ。
舞台に立つ人間はみんなそれが欲しくて欲しくて、
でも、努力したって簡単に手に入るもんじゃない。
そーいうのを、才能っていうんだ」
やっと見つけた華を、才能を、枯らされて堪るか。
舞台の上で、俺のそばで、咲いてくれなきゃ困る。
「ひかるも、ひかるの才能も俺のもんだ。
……汚い手で触んな」
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ２人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ２人の人生に全力で拍手を送ります！素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね＊残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…！！ (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます＊お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年7月27日 22時
