・ ページ30
・
手作りのご飯は久しぶりに食べると思う。
自分の手作り、じゃなくて、誰か他のひとの手作り。
大根、にんじん、ごぼう、こんにゃく、里芋、しめじ、それから細かく切られたやわらかい豚肉。
やさしいみそ色の汁に浸かったたくさんの具材とその上にネギが乗っていた。やわらかい湯気が立ち昇るお椀を前にわたしはどことなく、ほっとする。
「誘ったわりには豚汁しかないんやけど。」
忠義さんは、いただきます、と丁寧に手を合わせてからそう言った。
「全然。…豚汁、好きなんで。」
むしろ、うれしい。とまでは口にできなかったけど。わたしも手を合わせてお箸を持つ。
もう絶対戻ってこないと思ってた場所に、一週間も経たないうちにまた来ているのはなんだかすごく、変なかんじ。でも、悪くない。
ひとりっきりでご飯を食べるよりはずっと。
忠義さんは相変わらずすごく口数が多いわけでもなくて、でも、豚汁をすこし作りすぎてしまったくらいで夕飯に誘ってくれるということは少なくともわたしのことを迷惑だとは思っていないようで、嬉しかった。
向かいで、ずず、と豚汁をすする忠義さんの耳にちいさなゴールドの輪っかのピアスが揺れる。
わたしはきらきらと光るそれをぼーっと見ながら豚汁にちょっと七味を振って、お箸で豚肉とこんにゃくを掴むと口の中に入れた。
「うまい？」
「…すごく。」
お椀を持ったままこちらを伺ってた忠義さんに、二回ほどこくこくと頷くと、満足そうに笑った。目尻が下がって、唇がゆるやかな弧を描いて、忠義さんは笑うととてもやわらかな印象を放つと思う。
豚汁は、本当においしかった。
わたしが作るお味噌汁よりずっとお出汁が効いてたし、野菜はみんな家庭科で習った切り方を駆使したようなカッコ悪い形じゃなくてこなれた切り方だったし、豚汁の温度も味の濃さも全部、ちょうどいい。
おいしくって、涙がでそうになった。ほんのちょっとだけ。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 582人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (
レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません（涙）そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います！ありがとうございます！ (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです！応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…！そしてあたたかいコメントありがとうございます（涙）すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです！ (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2019年1月30日 0時
