( あんず色のよすが )

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メンドくさいことには、巻き込まれたくはなかった。


その気持ちは今も同じで。

義理の弟とは言えどあっちは絶縁状態で最早俺にはなんの関わりも義理もないし、歳が若いというのもあるけどまるで母親らしさのなかったあのひと――三年前に一度だけ見た時はすくなくとも、そう感じた。隣に立った若い男の腕を掴んで子供みたいに泣いていたひと。隣でじっと立っていたあの子が浮いて見えたことを今でもうっすらと覚えている。――が俺の存在を厭っていることは知っている。


だから、できれば関わりたくないし、あのひとの頼みも適当にやり過ごそうと思っていた。




――寂しくても、どうすることもできないし。



諦めたみたいに、でもひどく心細そうな顔をしたあの子に、自分でもすこし驚くくらい自然と手を差し伸べたのは、単に同情したからなのか。

それとも、親に振り回されてばかりでいつも不満や寂しさを抱いていた子どもの頃の自分と重ねたからなのか。

自分でもはっきりとはわからへん。




ベランダの隅に置かれた缶の中に煙草の吸殻を入れ、ちいさくため息をつく。

そろそろ、体が冷えて、指先がかじかんできた。




さっきまで観ていた映画は、あまり面白くなかった。

よくあるパニックもので、ぎゃあぎゃあとやたらうるさい主人公のガールフレンドの演技が嫌やし、だいたいオチも想像がつくから、最後まで観るまでもない。

夕飯は豚汁――カレーとかスープとかこの手のものはいつも多めに作りすぎてしまう。何日かに分けても結局食べきれなくて、ダメにする。――をさっき作っておいたから、スーパーで足しにする惣菜を買うついでに、他のDVDを借りてこようか。



見たくないものから目を背けたこの生活がいつまで続くか、たまに不安になる。

それと同時に、いつまでこんな生活を続けなくちゃいけないのかも、不安になった。






それにしても、と俺は思う。


それにしても、映画を見てあんな風に瞳を潤ませる人間を俺は見たことがなかった。あんなに清く、純粋に。

俺はあの時かなり動揺して、だけど目を潤ませながら画面を食い入るように見つめるあの子を思わずじっと見てしまった。



あの子があんな涙を浮かべることを、あの子の母親は知ってるんかな。知らんのやろうな。



吸い殻の入った缶を元あったベランダの隅に戻し、それから部屋の中に戻った。部屋の中はあたたかく、うっすらと豚汁のにおいがした。







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