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「なに食べに行くん。」
ソノダさんが言い出してママとわたしと三人で行くことになっている食事は、来週の日曜に予定されてた。
タツくんは氷の入ったグラスに冷蔵庫から出したポットの麦茶を注ぎ、そのまま、冷蔵庫に背中を寄りかからせながらグラスを傾ける。
からり、という氷の音と共に麦茶――ちょっと前からタツくんの家の冷蔵庫には麦茶が常備されてる。タツくんは麦茶が好きらしい。――の水面がまっすぐ傾く。
「ホテルのバイキングって言ってた。」
すごくいいところの、らしい。ママが言ってた。
ママはソノダさんがわたしが喜ぶと思ってホテルのバイキングを選んだことを、よかったわね、とも言っていた。
「へえ、ええやん。うまいもんたくさん食べれるし。」
にやりと口角を上げてタツくんは言う。
わたしはちいさく頷くような、まばたきをするような、曖昧な反応をしてしまう。
いいんだろうか。自分でもよくわからない。
わたしは単純に、ソノダさんがわたしを食事に誘ってくれて、ママがそれを疎んでいないことはうれしかった。
ママの恋の中でわたしはいなくなっていることにはなってないんだと、わかったから。
だけど、日曜日にその予定がなければいつも通りママは仕事で、わたしはタツくんの家に来ることができると思うと、なんだかあんまり食事に行きたい気がしなくなってくる。
ホテルのバイキングなんて、どうでもよかった。
ホテルのバイキングよりここでタツくんと作ったご飯を食べるほうが、ずっとずっといいような気がした。
今日みたいに、タツくんが忙しくてたいした会話がなくたって。
余計なことを考えないように手元に視線を落とす。
中国史についての問題文をもう一度目で追って3つの選択肢からひとつを選んで、その番号をノートに書き込んだ。
「キリのいいとこまで終わったから帰るね。」
ピンクのシャープペンをケースにしまうとノートと問題集を閉じて、タツくんにそう言った。
びたびたと雨が降る音が外から聞こえた。
勉強道具をしまい立ち上がってリュックサックを背負うと、立ったまま携帯をいじっていたタツくんが「準備できた?」と顔を上げてわたしを見る。やさしい目と声で。
ほんのすこし、息が苦しくなった。
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蒼 夢見子(プロフ) - もんさん» もん様、しばらくぶりの更新にも関わらず読んでくださりありがとうございます…素敵な感想までいただけて嬉しいです…(涙)気まぐれな更新になってしまっていますがお付き合いいただけるように更新頑張ります…! (2022年2月6日 14時) (レス) id: d76122eb40 (このIDを非表示/違反報告)
もん(プロフ) - 更新とても嬉しいです、蒼さんの作品がどれも切ないのに心が暖まって大好きです。 (2022年2月6日 1時) (レス) id: 88e425fb34 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、コメントありがとうございます。(お返事がひどく遅れてしまい申し訳ありません…)そう言っていただけてとても嬉しいです。更新が途絶え気味ですがなんとか最後まで書けるよう頑張ります…! (2022年2月5日 16時) (レス) id: 0bca9b395c (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - コメント失礼します!つい先日このお話にたまたま出会い、あまりにも好きすぎて一気読みしちゃいました……!続き、楽しみにしてます。これからも応援してます! (2021年10月12日 11時) (レス) id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - しずくさん» しずく様、初めまして。コメントありがとうございます。書き始めてからたくさん時間が経ってしまい更新も気まぐれで申し訳ないですが、あたたかいコメントいただけて本当に恐縮です。これからも読んでいただけるよう頑張ります! (2021年7月19日 20時) (レス) id: 7499a18546 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年12月5日 23時