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「梅雨も嫌やけど、こんな暑くなるんやったら雨の方がマシやな。」
わたしが顔をあげると、タツくんは焼き鮭定食についてる小鉢に醤油を垂らしていた。
それから、「夏って、閏年みたいに四年に一度でいいと思うねん。」と言って、醤油さしをテーブルの端っこに戻す。
朝のファミレスには思っていたよりひとがいた。新聞を読んでいるおじいさんやおしゃべりをしてる女の人たち。
タツくんとわたしは運悪く、ブラインドは下されているものの朝の強い日差しであたたまった窓際の席に通されてしまって、おかげで汗がひくまですこし時間がかかった。
昨日の土砂降りが嘘みたいに、外はぴかぴかに晴れていて暑い。
わたしは細切れのレタスたちをフォークでお皿のはしっこに寄せて、それからフォークですくう。
運ばれてきたばかりの丸いプレートにはパンケーキもベーコンもサラダも載っていて、サラダにかかったドレッシングがパンケーキに染み込まないか、さっきからすこし気になってた。
「でも、じゃあ夏のたのしいことも四年に一度になるね。」
そう言ってから、なんだか随分と幼じみているように思えてもっと違う返事をすればよかったと思ったけど、
「夏のたのしいことって、何があるん?」
と、タツくんは興味深そうな顔で私を見た。
「そうめんとか、スイカとかアイスとか…。」
「まあ、それはそうやな。…あとは?」
追って訊かれるとは思っていなかったから、わたしは慌てて夏を思い浮かべてみるけど、食べ物以外に浮かんでくるものはどれもたいして縁のないものばかりだ。
甲子園。海。山。川。プール。お祭り。
「…花火?」
「Aちゃん花火好きなん?」
なんとなく一番身近そうなものを言ってみただけで、テレビで見るくらいで見にいったことも手持ちのもので遊んだ記憶もない。
結局夏が嫌いなタツくんを納得させることができるほどわたしも夏に思い入れなんかないのだ。
「…わかんない。やっぱり四年に一度でもべつにいいかも。」
まさに今日からはじまろうとしている夏をそんなふうに思うのはすこし寂しくて投げやりにそう言うと「な、せやろ。」とタツくんは口元をほころばせた。
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蒼 夢見子(プロフ) - もんさん» もん様、しばらくぶりの更新にも関わらず読んでくださりありがとうございます…素敵な感想までいただけて嬉しいです…(涙)気まぐれな更新になってしまっていますがお付き合いいただけるように更新頑張ります…! (2022年2月6日 14時) (レス) id: d76122eb40 (このIDを非表示/違反報告)
もん(プロフ) - 更新とても嬉しいです、蒼さんの作品がどれも切ないのに心が暖まって大好きです。 (2022年2月6日 1時) (レス) id: 88e425fb34 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、コメントありがとうございます。(お返事がひどく遅れてしまい申し訳ありません…)そう言っていただけてとても嬉しいです。更新が途絶え気味ですがなんとか最後まで書けるよう頑張ります…! (2022年2月5日 16時) (レス) id: 0bca9b395c (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - コメント失礼します!つい先日このお話にたまたま出会い、あまりにも好きすぎて一気読みしちゃいました……!続き、楽しみにしてます。これからも応援してます! (2021年10月12日 11時) (レス) id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - しずくさん» しずく様、初めまして。コメントありがとうございます。書き始めてからたくさん時間が経ってしまい更新も気まぐれで申し訳ないですが、あたたかいコメントいただけて本当に恐縮です。これからも読んでいただけるよう頑張ります! (2021年7月19日 20時) (レス) id: 7499a18546 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年12月5日 23時