( あんず色のよすが 3 )

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久々の晴れだった。


晴れ、と言っても心地の良い天気とは言えない。日が暮れてきたこの時間でさえ行き場のないこの蒸し暑さと容赦なく照りつける強い日差し。夏が始まっていた。


「よかったやん。バイト辞めずに済むんやろ？」


コンビニの入り口の前のふたつのパーキングブロックにそれぞれ腰をかけた俺とマルはアイスバーをかじっていた。


「おん。まあ。」


試験前に詰め込んだ甲斐があってテストの点数はそう悪くなかった。それはとにかく、必死に詰め込んだものやから受験勉強にはまったく役に立たないものやったけど。

おかんに結果を伝えたら返ってきたのは「受験勉強も頑張り」のひとことで、どうやらビデオショップでのバイトは継続できるらしい。
　

オレンジ色のアイスの表面が溶け出していくのを危機感もなくじっと手元を眺める。

日に焼けた手にうすい色の爪はずいぶん浮いて見えた。



「もー、元気ないなあ。もしかして、まだ鈴木さんのこと気にしとるん？」


マルは両眉を上げて俺を見ながらアイスをかじる。マルもよく日に焼けていた。

弱いサッカー部と違って、陸上部は8月の頭にインターハイに出るらしい。マルはアホやけど、足は速い。


「俺はただの仲良い親戚の兄ちゃんやと思うけどなあ。」


ぼやくようにつぶやくマル。


「せやったら、普通、母親に会うてること隠さんやろ。」


「それはぁ、いろいろ家の事情があるんとちゃうの？なんか、複雑そうやし。」


それはそうやとしても。なにか大切なものの話をするかのように俺に話す彼女の目を思い出すと、とても自分の過剰な想像とは思えない。



「気になるならさ、直接聞いてみればええやん。」


アイスの最後のひと口をかじると同時に、マルがそう言った。

それから「そうやわ」と自分で自分に賛成するように何度もうなずく。


「どうせ夏休みんなって会われへんようになるんやし、亮ちゃんかてこれから受験勉強で大変やん。やから、どっか誘ってみれば？ほら、今週の金曜とか。特別日課やし！」


勝手にひとりで盛り上がり話を進めるマルを、いつものように一蹴しようとして、やめた。



いい加減、自分の意気地のなさにはうんざりしていた。

同じクラスになって随分経っているのに、今まで俺がしてきたことと言えばせいぜい、たまに話しかけたりダビングしたCDを渡すだけで。


これを恋と言うのなら、あまりにも幼稚で惨めだった。




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