。 ページ2
。
いろんなことが不確かで不安定なまま、Aちゃんがすっかり自分の生活の一員になってしまっている。それも、ごく自然に、溶け込むように。
そのことを認めるしかなかった。
先のことを考えようとすると、いつだって不安になるのは変わらない。
煙草を吸うのも忘れてぼんやりとAちゃんを眺めている俺に本人は気づきもせず、真剣な眼差しを手元に注いでいる。
外は相変わらず雨が降っているらしく、静かな部屋の中にかすかに雨の音が入り込んでいた。
ふいに――Aちゃんが落ちてきた髪の毛を片手で耳にかけた。
俺はなぜか、その様子に目を見張ってしまう。ほんの一瞬。どうしてか、まばたきをするのが惜しい気持ちになったのを頭の隅で自覚する。
頬がちいさくて白い、と思った。
母親似なんやろうか。父親の話は一度も聞いたことがなかった。とっくに薄れている三年前の記憶を呼び起こして、Aちゃんの母親の顔を思い出そうとするけどうまくいかない。
子どもじみてはいないけどあどけなくて、だけど大人っぽくも見える、不思議な横顔。
ちいさな耳には黒いイヤフォンがはめられていて、そこから細いコードが伸びて床に置いてある円形のCDプレイヤーに繋がっていた。
そういえば。
そういえば、この瞬間まで忘れていてAちゃんには言ってなかったことを思い出す。
ついこの前、俺が唯一知るAちゃんの学校の友達に会ったこと。
ビデオショップに行くとときどき見かけたけど、言葉を交わすのは初めてやった。
――Aちゃんって、学校
客としての受け答え以外、なにかを話しかけるつもりなんて、なかった。
さほど知り合いとも呼べるような関係ではないのに歳下だからと言って馴れ馴れしく話しかける大人はみっともないと思ったし、親しんだ人間以外としゃべるのは苦手やったから。
だけど、『錦戸』とネームプレートを胸につけた、俺なんかよりずっと清爽で、目鼻立ちの整ったその顔を見ていたら、
――友達がダビングしてくれたの。
ひと昔前の洋楽ばかりが入ったCDをわずかにうれしそうな表情を浮かべ俺に見せてくれたAちゃんを思い出した。
深く考えはしなかった。
質問の答えを期待していたわけでもない。
ただ、意図的にそう訊いた。
不可解な気持ちと、恥ずかしさに俺がため息をついたとき、Aちゃんは、初めて顔をあげてこちらを見た。
。
738人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「関ジャニ∞」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼 夢見子(プロフ) - もんさん» もん様、しばらくぶりの更新にも関わらず読んでくださりありがとうございます…素敵な感想までいただけて嬉しいです…(涙)気まぐれな更新になってしまっていますがお付き合いいただけるように更新頑張ります…! (2022年2月6日 14時) (レス) id: d76122eb40 (このIDを非表示/違反報告)
もん(プロフ) - 更新とても嬉しいです、蒼さんの作品がどれも切ないのに心が暖まって大好きです。 (2022年2月6日 1時) (レス) id: 88e425fb34 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、コメントありがとうございます。(お返事がひどく遅れてしまい申し訳ありません…)そう言っていただけてとても嬉しいです。更新が途絶え気味ですがなんとか最後まで書けるよう頑張ります…! (2022年2月5日 16時) (レス) id: 0bca9b395c (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - コメント失礼します!つい先日このお話にたまたま出会い、あまりにも好きすぎて一気読みしちゃいました……!続き、楽しみにしてます。これからも応援してます! (2021年10月12日 11時) (レス) id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - しずくさん» しずく様、初めまして。コメントありがとうございます。書き始めてからたくさん時間が経ってしまい更新も気まぐれで申し訳ないですが、あたたかいコメントいただけて本当に恐縮です。これからも読んでいただけるよう頑張ります! (2021年7月19日 20時) (レス) id: 7499a18546 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年12月5日 23時