( あんず色のよすが 2 )

「ただ春を待つ」 ページ1

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今日、期末試験の答案が返ってきた。


学校の試験は嫌いじゃない。理不尽じゃないから。

容量も頭もさほど良くないわたしでも授業でやった教科書の範囲をじっくり読んで、配られたプリントとワークを二回ずつほど解けばだいたい、75点以上は取れる。


今回もどれも平均点以上は取れていたし、英語表現は94点で一番点数が良かったけど、数IIと物理はやっぱりそんなに良くなかった。理系科目は苦手だ。

でも、3年生になるとわたしたち文系クラスは理系科目を取らなくていいことになるから、それは結構うれしい。



もうすぐ、春休みがくる。






「これ、ありがとう。」


リュックサックからずっと借りていた『愛と青春の旅だち』のDVDを取り出すと、タツくん(・・・・)は読んでいた文庫本から顔を上げて眉毛をすこし持ち上げた。


「もうええの？」


「観たくなったらここで観させてもらう。」


わたしは頷く。


「今日の夕飯、パスタでええ？この間もやったけど。」


「うん、全然。なんでも。」


タツくんの作るものは、なんでも美味しい。

そう思ってるのは本当だけど言葉にする必要はない気がして、本を読むタツくんの前を横切って本棚を見上げた。



本棚には夕飯までの時間を潰すには充分すぎるくらい、本も漫画もDVDも詰まってる。

借りてたDVDをしまってから、なんとなく題名だけで高校生のわたしでも読めそうな本をひとつ取り出した。


「これ、読んでもいい？」


ぱらぱらとめくってみながら振り返って訊くとタツくんはちらりとわたしの方を見上げて、どーぞって頷いたから本を持ってタツくんのとなりに座った。



タツくんは煙草を咥えて、ライターで火をつける。片手で開いたままの文庫本を持ちながら。

いつ染め直したのかわからないけど、タツくんの肩につくくらいの長い髪はてっぺんから毛先まで綺麗な茶色をしてた。





部屋の中にはタツくんが煙草をふかすかすかな音とお互いがページをめくる音くらいしかない。


ベランダに出れるおおきな窓からは、やわらかいオレンジの、あんず色みたいな夕方の日差しが差し込んでいた。






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