白い祈り (ページ48)

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怒鳴り散らす戸山に奥邑さんは無表情だった。

『それが何人もの家族から金を巻き上げた上に地獄に突き落としてきた理由か。』

『うるさい！俺は子どもたちが目の前で闘病の甲斐もなく死んでいく様を見てきた！その親が泣きながら我が子の骸に取り縋る姿もだ！
それが俺にも、俺の娘にまで順番が回ってきたんだ。俺は自分の子どもにさえ何もできなかったよ、小児科医だというのにな。
金さえあれば…と島に唆されて斡旋を始めたが、娘が死んでからは自主的にやり始めた。

俺は分かるんだよ。手をこまねくばかりでなく何か手を打ちたい親の気持ちが痛いほどになっ。その手段を安く与えてやるんだ、それの何処が悪い！！』

一気に奥邑さんの肩が上がり、戸山は柵の向こう側へと体重を移動させられる。

『その後まで面倒見てから言え。間違った手段を選んだと知った親たちの絶望を見ろ。その選択肢を与えた罪は重い。』

更に肩が上がった。
マズい、本気で流れの速い川に落とすつもりだ。
奥邑さんの冷たい炎が青く燃え盛る。このままではその炎で自分をも燃やし尽くしてしまう！

まさに戸山が川の中へ放り込まれようとした刹那、俺は迷わず彼らに飛び込んだ。

『奥邑さん！病院は《元気になるところ》なんです。医者としてそれ以上は許せません！！』

そう叫びながら彼の背中にぶつかっていく。これ以上はする必要がないと、その細身の肩と腰に両腕を回して思いっきり抱き締めた。

ハッと我に返った奥邑さんが俺を振り返る。

『………周芳野くん。』

『奥邑さん…彼の罰をあなたも背負わないで。』

見つめ合う瞳の奥に燃えていた冷たさは、その言葉であっという間に消え去った。
奥邑さんの動きが止まった隙に、慌てて戸山を引き戻し柵のこちら側に落とす。

『…ごめん。』

謝罪を呟きながら戸山を後ろ手に捻り上げたところで、奥邑さんがジャージのポケットから何かを取り出して俺に渡した。
昨夜の俺のネクタイだ。
まさか２日続けて誰かの手首を縛る為に使われるとはネクタイもびっくりしているだろうな。

『……戸山、人はその後悔や口惜しさをいくつもいくつも抱えて生きるしかないんだ。
自分の存在がいつか何かの誰かの役に立つと信じて。それこそが自分が傷付けた人への償いだと信じて。
あんたが今、周芳野先生に助けられたことを忘れるな……いや、そもそも事が露見したのも娘さんが闇に溺れていたあんたを救う為にしたことかもしれないが。』