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途端に足首をまとめて抱えられた。身体が一気に柵に沿って持ち上げられる。
『な……待…っ!!』
口が上手く回らない。制止もできない!
とにかく今出せる力を振り絞って柵にしがみつく。
マズい、マズいマズいマズいっっ!!!
よく見えないが、ここはいつも流れが急だ。
この動けない身体でこの川に放り込まれれば、俺は確実に流されて溺れる!
誰か助けて……奥邑さんっ!!
すると突然、戸山先生が横っ飛びにふっ飛ばされた。
『周芳野くん!』
このアニメの主人公イケボは……待ち望んだ人が現れた。とんでもない安心感に身体を血が駆け巡り、指先まで痺れた。
朦朧とした頭でもはっきりと自覚する。
好きだ。
この人が俺のヒーロー。
俺の祈りに応えてくれる人。
柵の上に引っ掛かっただけの今にも川の方へ転がり落ちそうな身体を、ぐいっと引き戻した強い両腕。俺をその胸の中に抱き締める両腕は強くて優しい。
『…奥、む、らさ…。』
途切れ途切れの俺の言葉に、彼は泣きそうな声で囁く。
『大丈夫?良かった、間に合って…。』
しかし、白い影はまた動き出した。
『っ…後ろ!』
そこからは、全ての動きが早すぎて俺には追えないほどだった。
バチバチと耳障りな音を立てて襲ってきたスタンガンを奥邑さんが蹴り飛ばすと、戸山先生はラグビー部仕込みのタックルで奥邑さんの細身の身体に飛び込んで来た。
吹っ飛ぶ奥邑さんを見て、動けないはずの俺の身体が動く。倒れた奥邑さんの上に馬乗りになった戸山先生が彼の胸を殴る直前、その白衣を掴んで思いっきり引っ張った。
バランスを崩し背中から地面に転がった先生は俺に掴まれた白衣を脱ぎ捨て立ち上がろうとする。
されども先に立ち上がった奥邑さんが戸山先生の肩に素早く後ろ蹴りを叩き込んだ。それから、たまらずまた背中に土をつけた彼の鳩尾をすかさず強く踏みつける。
『ぐぅ…。』
更に先生の動きを封じようと彼の胸を掴み上げ、首に腕を回して締め上げた。しっかりと体重を乗せた見事なヘッドロックに、体格のいい戸山先生も流石に跳ね返せないようだ。
けれど、勝負あったか…とホッとしたのも束の間。
俺の目にそれは突如として飛び込んできた。
『……戸山ぁぁぁぁあああっ!!』
石馬さんだ。気を失ったはずの石馬さんが両手にナイフを握り締めて走り込んできたのだ。
『やめて、石馬さん!』
…ふと、父の顔が浮かんだ。
タイミングの悪い人だった。
けれど純粋な人だった。
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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時