白い祈り (ページ35)

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ふと朝の別れ際の奥邑さんとの会話が脳裡に甦る。

『…俺ね、感動した。周芳野先生の考え方。とても前向きで。』
『前向き…ですかね？勿体無いじゃないですか。』

相談室へ帰って戸山先生の資料を掻き集めた奥邑さんが俺をそっと覗き込んだ。

『ん…でも身体触られたこと…大丈夫？』
『次は殴ります。』

『んはははははっ！いいな、周芳野先生。好きになっちゃうよ。』

『す、好きに…って…。』

破顔一笑。大きな口をパカッと開けて笑う彼。

そうか、この笑い方は父さんに似てるんだ。

その時、奥邑さんは実の父に似ているのだと気付いた。
だから奥邑さんが気になるのか。

『…周芳野先生ね、なんとなく似てるの。俺の初恋の子に。優しくていつも前向きで…どんな時も明るく振る舞うしっかり者。』

驚いたことに、俺も彼の大切な人に似ているらしい。

『いや、俺は明るくもないししっかり者とは言えませんけど…その方とは？』

『フラれちゃった！』

もしかしてこの前フラれたという彼女さんのことか。

『なんで……あっ。』

『……俺、心配症だからさぁ。これ以上心配しないようにフッてくれたんだよね。ま、俺が重すぎたのかもしれない。』

どんな人なのか知りたい。
この男にこんな寂しさを感じさせる人は、一体どんな女性？

…………この気持ちはナンダ？？

悶々とそんなことを考えつつドライヤーを置いた。
そこでハタと思い出しメッセージアプリを確認すると、昨夜作ったグループチャットにたくさんのメッセージが飛び交っている。

北山先生と奥邑さん、鹿島先生と俺の名前の他に、後から加わったのだろう、藤ヶ谷先生や数名の循環器内科・小児科の看護師の名が連なった。

北山先生は藤ヶ谷先生と医大が一緒で昔からよく情報交換をしていたらしい。藤ヶ谷先生を潤正医大病院に引っ張ってきた当人だから、彼が今回のことには関わっていないという自信があるのだろう。
奥邑さんが戸山の名を知っていたのも、実は藤ヶ谷先生からのリークだったという。

《戸山さんのパスワード押さえた！》

小児科の看護師二階堂くんが動画を添付していた。戸山先生がパスワードを打ち込んでいるところを盗撮した動画だ。
それを奥邑さんが解析しているようだけど。
……やっぱり寝てなかったか。仕方ないとはいえ心配してしまうのは医師としての性か。

少し早いが出勤してみよう。何か手伝えればいいのだけど、勤務時間には医療に専念して下さいと念押しされているから…。