白い祈り (ページ28)

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強がりなのは十二分に分かる。
それにかなり無理をしていたはずだ。
今では拡張型心筋症は薬剤療法でかなり抑えられることが多い。薬剤で抑えられず心不全を繰り返していたようだが、補助装置を付けるまではスケジュールの厳しい仕事を続けていた。

『…ところで、ご自分も病院を辞めて１度ご実家に帰らねばならないほどの大病を患われたんですよね？それは、相原さんが亡くなってからですか？』

『そうだ。彼女が亡くなってからすぐ。
………さあ、何が言いたい？』

鹿島先生は俯いていた顔を上げて、俺の目をしっかりと見つめた。
俺に先を促しながらも、怯えた眼は見る見る内に溢れんばかりの涙を湛え、紙コップを持つ両手は細かく震えている。

もう覚悟はしているのだ。

『……鹿島先生、その病はC型肝炎だったのではないですか？』

『…っ。』

ああ、その病の名前とともに涙は溢れ出した。ぼろぼろと。
赴任してきてから今日まで、俺は同じチームでありながらも彼を鉄仮面のように表情のない人だと思っていたけれど。

『周芳野先生？えと…不勉強で分からないんですけど…C型肝炎が何なんですか？？拡張型心筋症ってどんな病気？』

奥邑さんは目を何度も瞬きして、おずおずと訊いてきた。
これくらい分かりやすいほうが俺にはピッタリだわ。

『突発性拡張型心筋症は難病指定にされている、つまりまだ原因と治療法が研究段階である心臓病です。
主に左心室の心筋がポンプの能力を落とし筋肉が伸びたままになるので左心室が大きくなってしまいます。だから拡張型なんです…。』

つまりは心臓が肥大するには高血圧などの様々な要因があるが、拡張型は心臓そのものに原因があるので、重症で心不全を繰り返す場合は植込型除細動器や外付けの人工心臓補助装置と繋げなければならない。

相原さんは既に外付けの人工心臓補助装置を付けていて、それでも尚不整脈を起こしていた。残る手段は心臓移植だったのだ。

『その原因もかなり解明されてきています。遺伝などによる免疫異常や感染症などのウィルスが心筋に入り筋力を落とすんです。
ウィルスの場合…勿論まだ様々なウィルスの可能性が示唆されていますが、その中でもこの国で１番身近と言えるのはC型肝炎ウィルスです。

ウィルスの潜伏期間は半年に渡る場合もありますし、何より肝臓は《沈黙の臓器》。発症していてもなかなか自覚症状が出ない為に人によっては何年も気付かないことがある。その間に他へと感染することも。』