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まぁ、その奇跡にはきな臭い噂もあったというけれど…。


さて、主任と俺がメインの担当医になっているし、奥邑さんとはまた話したいな。もうちょいアニメの話を仕入れておこう。
少し後ろ髪を引かれながら彼とはそこで別れ、病室に急ぐ。途中で看護士長にバタバタするなと叱られた。

俺は新病院立ち上げの際のスタッフ不足を補う期間限定の赴任。だからこそ忙しさにかまけておざなりになってしまいたくはないものでつい走ってしまう。


病室の前で少し息を整え、4人部屋に足を踏み入れた。
今日入院されたのは50代の男性…心不全で今朝方救急車で運び込まれた。
夜勤の医師から引き継いだカルテでは高血圧からかかなりの心臓肥大が見られる。さぞかし息をするのも大変だっただろう。


『…こんにちは、担当になります周芳野です。』

白髪の混じり始めた男性は点滴の管とバイタルを取るコードに繋がれたまま寝ていたが、俺を見て慌てて上半身を起こす。

『あ、よ、よろしくお願いします!』

『あ、寝たままでいいですよ。確認の為、お名前は?』

『石馬です。』

患者に名前を訊くのは本人確認と認知度を見る為だが、石馬さんは少し不思議そうな顔をした。枕の上のベッドの名札をチラリと見る。

『ありがとうございます。失礼しました。患者さんを取り違えてはいけないので必ず訊くんです。
…今朝お家で息がしにくくなって救急搬送されたんですね…初めてのことですか?』

ニッコリ笑いかけると男性も少し安心したのかニッコリ笑い返してくれたが、寝ることはせずにベッドの端に足を下ろして座った。

『いえ、実は半年ほど前からひどくなってきて。動悸もするし、マスクして歩くだけでヒィハァしてました。』

手足や顔の浮腫もひどい。利尿剤ももっと強いものを使ったほうがいいな。

『むくみですか…太ったんだとばかり思っていました。』

『今、呼吸は落ち着いていますか?血圧が200を超えていますね。心臓肥大も見られます。原因などはまだいくつか検査をしてみないと分かりませんが、とりあえず利尿剤と降圧剤で様子を見ていきます。水分摂取量は1日800mlとさせて下さい。喉が渇くと思いますが、看護士に言ってもらえば氷を貰えますから、しばらくはそれを口に含んで我慢して下さいね。』

石馬さんがしっかりと頷くのを見て、もう少し説明を重ねた。

『今確実に言えるのは、石馬さんの場合血中水分量が多い…つまり血がかなり薄くなってらっしゃるということです。』

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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時

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