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病棟とは違い明るく電灯に照らされた廊下では仮眠を取りに来た数人の医師と挨拶を交わし、循環器内科控え室のドアを開けた。
中は暗かったので、向こうの窓から更に明るさを増した街の明かりと高架を走る電車の四角い窓がやけに目に飛び込んでくる。
夜になり、病院が迎えた静寂とは正反対の華やかさに目を奪われた。
そう言えば映画…アニメだけは見ておきたいな。
奥邑さんと眼鏡を一緒に買いに行くなら、ついでに映画を観るのもいいよねと自然に思えた。アニメ好きと観るならきっと新たな発見もあるだろうし、何よりあの人となら変に気遣わずとも楽しめそうな気がする。
そこまで考えてから、はたと気付く。
奥邑さんとプライベートでも一緒にいる姿が自ずと想像できている自分に。
少しだけ本当の彼と話せて、それでも尚もっと知りたいと思っているし、知ってほしいと思う。
時折見せる冷たい美しさも、寂しそうな横顔も、保護したくなるオドオド感も、柔らかな笑顔も、ひとつひとつが妙に胸に刺さるのは何故だろう。
医師と患者がプライベートで友だちになるって許されるのかな？本当の患者じゃないけど、倫理的なルールには引っ掛からないよな？
街の明かりを見ながら、しばしそんなことを考えていた。
と、廊下からカツカツ足音が聞こえて誰かがドアの所に立ち止まる気配。
振り返ると長身の白衣の男性が立っている。
『あ、鹿島先生…お疲れ様です！』
俺も身長は高いほうだが彼は更に高くてがっしりしているから変に威圧感がある。５歳ほど年上の物静かな人だが、俺はこの人が苦手だった。
いや、もはや恐怖の対象だ。
『周芳野くん…まだいたのか。電気も点けずに何してるんだい？
『はい、鞄を取りに…。』
慌ててロッカーの鍵を開けて鞄を掴んだ。
奥邑さんとは逆に、この人と２人きりで同じ空間にいるのはなるべく避けたい。
なのに…。
『……せっかくだから、コーヒーでも飲まないか？』
電気のスイッチを入れ、鹿島先生はドアを閉めた。
……マズい。この状況はマズい！
『いえ、北山先生に頼まれて今薬剤を調べてるんです。いやぁ、すぐ上に戻らないと…失礼します！先生も調べ物ですか？』
近付いてくる鹿島先生と距離を保ちつつ、俺は愛想笑いを浮かべジリジリとドアに近付いていく。
『ああ…。』
けれども、彼は俺を逃がすつもりはないらしい。
素早くドアに鍵を掛けて、一気に俺との間合いを詰めてきた。
『ツレないなぁ。どうして僕を避けるんだ？』
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作者名：みあん | 作成日時：2023年2月26日 1時
