白い祈り (ページ15)

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……そう、臓器移植の無許可斡旋は完全に違法だ。
しかも心臓となれば更に話は大きくなる。

今では国内でもドナーさえ見つかれば心臓移植術は行われるが圧倒的に需要に対するドナーが少ないのが現状。
勿論ドナーになるならないという意志の問題も根強くある。この国では心臓の死までは死と認めない認識が根強い。実は基本的に脳死と判断されるのは、臓器提供の意志がある時のみだ。
《脳死イコール臓器提供》の図式が一般的に浸透してドナーの数が増えるまでには越えにくい壁。
法律も国内移植を推進する為に前向きになってきたとはいえ、あと１歩のところが進まずやはり厚い壁となって立ち塞がっていた。
国内で移植が行われるのは年に５０人程度。
しかも、海外でも自国内移植を優先する動きが加速している。つまりは海外からの移植希望者よりも国内の患者をまず救うということ。
この国からの海外移植希望者は人工補助心臓を付けているほどの重症患者が多いので、行った国でもまだ優先的にリストに入るが、それでもすぐにという訳にはいかない。結局はこの国にいるよりは可能性があるという程度になる。

そんな中で心臓移植という手段があれば生きられるという患者やその家族が危ぶみつつも、臓器を早期入手しやすい国で移植を謳う裏の臓器斡旋に惹かれてしまうのは分からなくもない。

『命のタイムリミットがあると知らされた本人もツラいけど、その周囲の人も……助かる可能性があるなら何でもしたいんだよ。』

奥邑さんの長い睫毛がふるりと揺れた。
…まるで自分もそうだと言わんばかりに。
誰か身近な人にもタイムリミットがあるというのか。

だけど、そんな無許可斡旋は所詮無許可なりの杜撰な移植しかできない。
海外でもドナーが見つかりやすい場所が全て医療倫理に優れている訳ではないからだ。

奥邑さんの言った通り、臓器を交換することだけが移植ではない。マッチングから術後の管理まで細かいケアが必要で、それら全てができてこそ本当の臓器移植と言えるはず。
設備の整わない、術前術後の丁寧なケアさえもないような病院で行われる移植はもはや自害することと同じと言える。

たが、そんな危険なことの為に大金を払わせ無許可に移植コーディネートする業者がいる。
そしてその業者に移植希望者を紹介するドクターがこの病院にいるとタレコミがあったのが１ヵ月ほど前だという。

『周芳野先生、無理しないで下さいね。俺は昼間に寝ればいいけど先生はお仕事あるし。』