ひとくふう荘14 (ページ32)

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両方のお手手で慎重に徳利を持ち上げたトシコさんは、ふぅぅぅっと徳利の飲み口の中に長く細く息を吹き入れ出す。
…すると、飲み口から白いもやもやがするするとあふれ出てきたの。トシコさんの吹く息に押し出されてきたみたい！

やがて徳利から白いもやもやは出なくなり、代わりに土の上に溜まった僕くらいの大きさの白いもやもやひと塊り。

『お前は信楽焼の狸。思い出すが良い、己の形りを。』

トシコさんの言葉に呼応するかのように、白いもやもやは揺れ動いた。
そしてゆっくりと僕たちの知るソレへと形を取っていく。

いつもよりちっちゃいけど、菅の笠にちっちゃな丸いお耳、まぁるいお目目、ツンと尖った長いお鼻、ギザギザの歯、おっきなまぁるいお腹におっきなまぁるいしっぽ、おっきなたまた…まぁ、コレはやっぱりおっきいんだね。
最後に黒い毛皮の色が染み込むように全身を覆う。

《……ワシ、なんか呼ばれたん？》

あら？お声が以前より聞き取りやすい。前はとても低くてガボガボしたお声だったのに、なんだかお若くなったかも？？大きさも僕くらいになってる。

『私たちが呼んだよ。信楽焼、少し話をしようよ。』

トシコさんはしゃがみ込んだまま、シン・タヌキチに向かって話し出した。

『お前、私たちに対して暴れたことを憶えているかえ？』

タヌキチは少しお目目をぐるぐる回して考えていたけれど、少しだけ眉を寄せておっきなお顔を傾げた。

《いや全然思い出せへんわ。確か俺んとこの窯の入口に立ってて…あれ？さっぱりわややん。ココは何処なん？》

全然？アカフク食べたことも？アマザケ飲んだことも？？

《アカフク！アマザケ！？なんや聞いたらお腹減った〜っ！》

どうやら食べることの欲はちゃんと忘れてないんだね。
トシコさんはあのお言葉を呪文のように唱えてみた。

『金銀財宝暴飲暴食酒池肉林。酒と女とお金は要らぬかえ？』

《何、その欲望の塊みたいな四文字熟語３連チャン。ワシ縁起モンやで？商売繁盛夫婦円満開運出世のお守りやで？？破滅の道まっしぐらないめえじ付くやん、嫌やわ〜。》

『縁起物の自覚があるのだねぇ。』

あらら。あんなに暴れまくってたこともすっかりお忘れ？？

《ワシら縁起モンの中の縁起モンよ？昔、時の天皇はんが来たときなんかな、俺らみんなで日の丸の旗持ってお迎えしてん。ほんならこんな歌詠んでくれはって〜ん。》

タヌキチさんは持っていためも帳をちっちゃなお手手でめくり、得意気に読みあげる。